第5章 次なる旅立ち
デルカダールには、それから数日の間滞在することになった。
ショーで不在となるシルビアのために、夜は宿で留守番を任された○○だったが、昼は比較的自由に、城下を散策することを許された。
と、いっても必ずシルビアを伴うように、という条件付きではあるが。
「――言っておくけど、そういう意味ではアナタのこと信用してないからね」
と、シルビアは○○にキッチリくぎを刺すのを忘れない。
○○本人にも否やはなかった。
まだまだ無防備かつ無自覚な部分があることは我ながら否定できない。
――それに、一人でいるよりシルビアのそばに居るほうが、はるかに心が安らぐのも事実だった。
そうしてひとまずの暮らしに慣れてゆきさえすれば、デルカダール王都はやはり世界随一の都である。その華やかさと賑わいは、強張っていた○○の心を四方八方から急速に解いていった。
シルビアも、ちょうどよい気晴らしとばかりに○○を連れて、町のあちこちを見せて回る。
もちろん主目的は○○の記憶の手がかり探しなのだが、焼き菓子の屋台やらブティックやら、明らかに本筋から外れた寄り道が主になることも多々あった。
シルビアと共に店から店へと飛び回るのは、確かに心躍る経験ではある。
しかしその一方で、○○の中にある危機感・焦燥感の類が完全に消失したというわけではなかった。
――結局ここへきてなお、自身の来歴に関する有力な情報は何一つ見つかっていない。
加えて、シルビアの心配りに対しても、ろくな返礼をできていない状況にも変わりはない。
噴水広場前のオープンカフェにて一息ついた時、○○は思い切ってシルビアに話を切り出した。
「ねえ、シルビア」
「ん?なあに?」
「あの、私思ったんだけど…」
――このままじゃいけない。
「私も何か、もっと役に立てないかな?」
「ええ?急にどうしたのよ」