第1章 星降る夜
思わず振り返る。ノック音は二回。答えずにいるとしばらく間を開けて、また二回。
「ねえ、起きてる?はいるわよ」
口調は女性のようだが声質はかなり低い。若干戸惑ったが、○○は
「ど、どうぞ」
僅かにどもりながら答えた。と、ほぼ同時にドアが開き、これまた見覚えのない男が姿を現した。思わず息を飲む。
――大きい
男は、かなりの長身だった。比較的若く、体格もいい。顔立ちは整っているが、いちいち動作が艶めいているのが気にかかった。
○○が身を引くと、男は一歩距離を詰め、
「あらよかった。ぴったりね」
○○の頭の先から足の先までを丹念に眺めた。
「あ、あの…」
戸惑いの表情を浮かべた○○。男は何か察したのか、
「最初に言っとくわよ」
「えっ」
ピッと人差し指を立てて○○の前に突き出した。
「アタシは、何もしてないからね。」
妙に凄みのある念押しだ。○○は引きずられるように頷く。男は片手にもっていた盆をテーブルの上に置く。盆にはスープの入ったカップが二つ、かごに盛られたパンとチーズが載っていた。
「お互い色々聞きたいことはあると思うの。でもまずは食べましょ。」
「いえ、私は…」
○○の腹が素直に鳴り響いた。男は眉を上げて、
「何も入ってないわよ。ほら。」
湯気の立ったカップを一口飲んでから○○に差し出した。
「ど、どうも…」
受け取った掌に、カップ越しの温もりが伝わる。クリーム色のスープを一口飲むと、途端に猛烈な空腹感が襲ってきた。○○はしばし無言でスープとパンとチーズを交互に胃に送り込んだ。男は、自身もスープをすすりながらその様子をしみじみと眺める。
「あなた、昨日の夜街の外に倒れてたのよ。その…ハダカで。」
「えっ?!」