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【DQ11】星屑の旅人

第1章 星降る夜


――闇の中に光が見える。
黒一色の平板な空間の中に、それは唐突に浮かんだ光だった。
小さく揺れるように瞬く僅かな緋色のひらめきに、○○は伏せていた顔を上げた。光ははっきりとした輪郭を保ったまま、だがどんどんと小さくなっていく。
待って、と叫んだ。その声は闇に吸われるように消えた。伸ばした手がむなしく空を掻き、そこでようやく気付いた。光は小さくなっているのではない、自分が遠ざかっているのだ、と。
声にならない叫びをあげた。それはあまりに受け入れがたいことのように思えた。翻る赤い閃き、あれは光ではなく――
目覚めは突然だった。
気付いた瞬間、○○はばねのようにはね起きていた。息が上がる。体は汗でひどく湿っていた。見覚えのないベッドの上だ。目から入ってくる現実感と、思考がまだ遊離している。何か深刻な夢を見ていたような気がするが、何一つ思い出せない。五感が体に戻ってくるのを確かめながら、辺りを見回した。
ベッド一つ窓一つの小さな部屋だった。一通りの調度はこざっぱりと整えられている。シーツが床に滑り落ちてはっとした。身に何一つ纏っていない。慌ててシーツを拾おうとかがんだところで、サイドテーブルに置かれた衣類に気が付いた。
『目が覚めたら着なさい』
かっちりとした字体のメモが添えられている。恐る恐る布地を広げてみると、これまた見たこともない衣服である。裾の長いシンプルなデザインの長衣からはシーツと同じく、香草のような安らぐ香りがした。下着らしきものも揃えてある。
――私、一体
自分の体を確かめてみる。汗で湿ってはいるが、それ以外に特に変わったところはない。
若干躊躇したが、他に選択肢はない。○○は置かれていた衣類を身に着けた。誂えたようにピッタリである。立ち上がってくるりと回ってみると、控えめに裾が翻る。動きも邪魔しない。
ここでほっと一息つく、よりも先に当然の疑問が頭をもたげた。
――ここは一体、どこだろう。
瞬間、まるで応えるように部屋のドアがノックされた。
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