第4章 更夜の誓い
「…ああ、そういうこと」
深いため息が、シルビアの口から漏れる。
「ねえ、ボウヤ。アナタがどう勘繰ろうがアナタの勝手なんだけど」
と、片手で赤毛の襟を掴んで引き寄せ、いともたやすく持ち上げた。
――とてつもない力だ。
赤毛は必死に暴れるが、シルビアの身体はびくともしない。
「○○に、つまんないこと吹き込むのだけはやめて頂戴ね?」
ほとんど意味のない罵声を発して赤毛は抵抗する。が、シルビアは徐々にその首に掛けた手に力をこめた。
どれほどの力で締め上げられているのか――みるみるうちに、赤毛の顔は赤黒く染まっていく。
――尋常な膂力ではない。
「折角だから、今後のためにオネェさんが教えてあげる」
と、シルビアは、場違いなほどにっこりとほほ笑んだ。
「『善意』ならあるわよん。――アナタが知らないだけ」
刹那、言葉を失った赤毛の横っ面に、シルビアの強烈な平手打ちが飛んだ。
「…!」
平手打ちのはずが、赤毛は軽く数メートルは吹っ飛んだ。動かなくなったその姿に背を向けると、
「やだん。ボウヤにはちょっと難しかったみたいねん」
白々しく身をよじるシルビア。
「さ。行きましょ」
と、○○の腕をそっとつかんだが、○○は立ち上がらない。
――というよりも、立ち上がれない。
「ちょっと、どうしたの?」
「…あ、足が…」
強いショックと恐怖、ついでに回り切っていた酒のせいで、○○の腰から下は、完全に力を失っていた。
シルビアは呆れかえった様子で眉を上げると、
「仕方ない子ねえ」
――ふいに手を伸ばし、○○の身体を掬うように抱き上げた。
あまりに軽やかな動作だった。
「あっ、あの、シルビアさ…」