第4章 更夜の誓い
「探したわよ?――○○」
いうが早いか、楼閣の先に立ったシルビアの影は、突如として掻き消える。
どよめきが一帯に奔り、次の瞬間、鞘走る澄んだ音が響いた。
――一体何が起こっているのか――
答えの代わりに、野太く鈍い悲鳴が、あちらこちから上がった。
○○の目がかろうじて捕らえたのは、月光に閃く細い光が幾度か。それだけだ。
不意に、強い衝撃が背後から襲った、と同時に○○の身体を縛めていた巨漢の力が急速に緩む。
慌てて振り向くと、
「ひっ…」
○○は短い悲鳴を上げた。
巨漢は今まさに、白目を剥いて地面に崩れ落ちるところだった。気付くと周囲は、同じく無様に大地に転げ身もだえる男たちで溢れかえっている。
――これ、は
言葉を失う○○の前に、シルビアが近づいてきた。
まっすぐに伸びた背筋、そして一本の線の上を歩くがごとく、迷いのない足取り。
流れの芸人にしては、その身のこなし、剣技、どちらもあまりに洗練され過ぎていた。
あたかも研ぎ澄まされた刃のごとくに。
――何者なの
見上げる○○だったが、シルビアの表情はちょうど、逆光になっていてよく伺うことができない。
「…安心なさい。峰うちよん」
と、シルビアはレイピアを一振りして汚れを払うと、滑らかに鞘へと納めた。
「○○、大丈夫?怪我はない?」
――当たり前のように差し出されるシルビアの手。
とっさに縋りつきたい衝動に駆られたが、○○はただ、シルビアを見上げた。
「…どうしたの?悪い子ちゃん」
シルビアの口元が動く――いたずらっぽいほほえみだけが、ようやく見えた。
もう一度シルビアは、手を取るように指先で○○を促す。
が、○○は躊躇った。