第4章 更夜の誓い
「どうした、待ちきれねえか?」
巨漢が嗤うと、男たちも手を叩いて嗤った。
「4500?それでしまいか?」
またどっと下卑た歓声が巻き起こる。
巨漢は満足げに男たちを見渡すと、もう一度○○の顔を自分の側にねじ向けた。
「…俺はもう6000だすぜ、気に入った」
男の濁った瞳の中に、○○自身の顔が写り込んでいる。
――きっと絶望とは
人の形に成ったとき、こういう顔をしているのだ――
狂ったような男たちの声も、悪鬼魍魎の巣のような光景も、むせかえるほどの獣欲が混じった熱気も、一瞬すべてが遠のいた。
夜空に浮かんだ月だけが、他人事のように美しく輝いている。
――ああ、それは。
夜空の月のように、当たり前に在ったもの。
光も希望もない闇の旅路に、確かな光として寄り添ってくれた人。
私はこうして、何もかも全て失ってから気づくのだ。
――シルビアさん
もし、もう一度会えたら私は――
その瞬間だった。
――狂乱の宴の只中に、一陣の風が吹き抜けた。
「――あら。オトメにお値段付けるなんて、ずいぶんいい趣味してるのね?」
よどんだ闇を裂いて、鋼のように良く通る声が飛ぶ。
「何!?」
その場にいた全員が、一斉に浮足立って辺りを見回した。
――先ほどの風のせいか、禍々しく燃えていた松明の火が消え、辺りは一瞬にして深い闇に包まれた。
男たちの間に、激しい動揺が走る。
――○○は目を見張った。
「見ろ!あそこだ!!」
一人がひときわ高い楼閣の上を指さし叫ぶ。
そこには、銀色に照る月影を背に、
――もう二度と取り戻せないはずの
シルビア、その人が立っていた。