第4章 更夜の誓い
赤毛は歪んだ笑みを張り付けたまま、
「いいじゃねえか。お望み通りこれからも旅はできるんだし。――どこぞの変態貴族に売り飛ばされて、一生飼い殺しよりはましだと思うぜ?」
その言葉が終わるや否や、酔った男が突如、○○の身体を羽交い絞めに抱き上げた。
分厚い手に口をふさがれ、悲鳴どころか息すら止まりかける。
――苦しい
「そういうことだ、お嬢ちゃん。仲良くやろうぜ」
たっぷりかわいがってやるからよ、と酒臭い息を吹きかけられる。
吐き気と涙が込み上げた。
○○は必死で身をよじり、薄く開いた手の隙間から叫ぶ。
「は、放してくださいっ」
が、
「いいねえ、たまらんぜ」
必死の嘆願は囃す声に変わって反響するばかりだ。
あちらこちらから無遠慮な手が伸びてくる。中でも、ひときわ巨大な腕が、まるで物のように○○を引き寄せた。
――例のボスと呼ばれた巨漢だ。
「おい、赤毛。この女、生娘か?」
「みたいだぜ。確かめてみれば?」
ボスも好きものだ、と歓声が湧く。
巨漢は舌なめずりしながら、○○に頬を寄せると、
「最初の味見料は3000からだ。どうだ?居ねえなら俺がもらうぜ」
――○○の全身が総毛だつ。
途端に、あちこちから、3500、4000、と声が飛んできた。
「おいおい景気がいいじゃねえか、なあ」
巨漢は、○○の顔を掴んで、
「どうだ、お嬢ちゃん。中々の値がついてるぜ。」
表情がよく見えるように男たちに向けてねじった。
――悪鬼の宴か
○○は全身総毛立った。下卑た言葉がそこかしこから投げつけられ、誰もかれも、集まった者たちはみな獣の様な顔をしている。
盛んに煮え立つ欲望が、狂気のように渦巻いていた。
――○○はようやくすべてを悟った。
自分が大きく道を誤ったことを。否やを叫べる状況ではないことを。
そしてもはや、今となってはすでに何もかも、取り返しがつかなくなっていることを。
――シルビアさん
唐突に、脳裏に清しい面影がよぎった。
まるで遠い過去の、もう二度と取り戻せないであろう記憶のように。