第4章 更夜の誓い
「でかした、赤毛。珍しく『傷もの』じゃねえな」
――状況が、理解できない。
○○は助けを求めるように赤毛に振り返る。
しかし赤毛は、
「どうだ、5000ってとこだろ?ボス」
「ああ。そうだな。」
ボス、と呼ばれた巨漢は、傍らに立っていた人相の悪い男に向かって顎をしゃくった。
男は心得たように頷き、出てきたばかりの廃墟に消えると、ほどなくして重たげな袋をもって戻ってきた。
「ほらよ。」
――男は袋を赤毛に手渡す。
「毎度」
赤毛は、あの人懐っこい笑顔を浮かべて、渡された袋の重みを嬉しそうに確かめた。
「あ、赤毛、さ…」
――喉が凍ったようだ。声が出ない。
「んん?」
袋から金貨を一枚取し、うっとりと見つめる赤毛。
「…嘘はいってねえぞ。れっきとした、サマディーへの『隊商』さ。」
扱ってる荷がまずいだけで、と野卑な笑顔を浮かべ、
「俺はきちんと説明したはずだけどな?女ならだれでもできる仕事だって」
○○の顎を掴んで上向かせた。
「――炊事洗濯とでも思ったか?」
おめでたいな、とあざ笑う彼の表情は、先ほど陽気に酒を酌み交わしていた人物とは別人のようだ。
○○は、さっと顔に怒りを走らせると、
「…だましたんですか!?」
「だから嘘はついてねえって」
赤毛は、呆れた様子で両手を上げた。
「むしろ感謝してほしいくらいだな。」
指を一本立てる。
「まず、衛士に見つかったときに助けてやった」
それから、と笑って、
「売り飛ばされる寸前のお前に『自活』の道を見つけてきてやった」
よく言うぜ、と野次が飛んだ。酒瓶を抱えた男が、歯の抜けた口で笑いながら、
「そうやってうまいこと女を連れてくるのがお前のいつもの手だろうが」
「おいおい、人聞き悪ぃな」
赤毛は、ほとんど人間離れして凶悪な笑顔を浮かべた。それでいて、今までみたどの表情よりもしっくりと馴染むのは、
――きっとそれがこの男の本性だからだ。
「――教えたろ?純粋な『善意』なんて、ないってな」
つまり私は。
愕然と、○○は目を見開いた。
――最初から『この男に』目をつけられていたのだ。