第1章 星降る夜
――そこには果たして、蠢く無数の影があった。
荷につけていたランタンを向けると、影の全容が露になる。見れば大小無数のスライムたちが、小さな繁みを囲んでてんやわんやの大騒ぎをしているのだった。
「やん、何なの一体?」
スライムたちはめいめいに甲高く鳴いて跳ね回っている。驚き戸惑っているようにも、怯えおののいているようにも見えた。シルビアはため息を付くと、腰に提げた細身のレイピアを抜いた。
大した魔物ではないが、他に仲間を呼ばれても困る。数も数である。見ていて気持ちのいいものではないし、何より馬が怖がる。
「しっ、しっ、あっちへ行きなさい!」
剣先で払うと、素直なスライムたちはあっという間に散っていった。
「まったく、何だっていうのよ‥」
と、藪の中をのぞいたシルビアは次の瞬間絶句した。
「えっ…!?」
――茂みの中に、人が倒れている。
女だ。それも衣服らしきものを一切身に着けていない。完全に裸の女性が仰向けに倒れている。
「ちょ、ちょっとあなた!しっかりなさい!」
とっさにシルビアは、羽織っていたマントを引きむしって裸身に掛けた。抱き起した身体からは、はっきりとした温もりが伝わってきた。
――生きている
応えるかのように、女の口元がわずかに動いた。
「…」
「えっ!なに!」
口元に耳を寄せたが、返ってくるのは安らかな寝息の音だけだった。
「何なのよ一体…」
シルビアは、マントでくるんだ女の体を抱き上げ、しみじみとその寝顔を見つめる。
顔立ちは若い。少女と大人のちょうど間頃か。マントから控えめに覗く手足は清らかで、酒の匂いもしなかった。見たところ大きな怪我もないようだが
――なんでこんなところに女の子が
シルビアは頭を振って、
「ともかくこのままじゃ駄目ね…」
片手で体を支えながら、シルビアはもう一度鞍に上がった。馬は急に重みを増した乗り手に、不満げないななきを漏らす。
「ごめんね、もう少しの間頑張って頂戴」
馬の首を撫でると、シルビアは手綱を取った。
――大門が閉まるまで、間に合ってくれるといいんだけど。