第4章 更夜の誓い
デルカダールの王都は、大きく分けて三つの街区に分かれている。
一つは王宮を取り巻く高台に設けられた、貴族や富裕層の住む上層、その外側、最も多くの国民が居住する一般層、そして一般層の外れ、かつて城塞の堀として用いられた半地下のエリアには、下層と呼ばれる貧民街が広がっている。
この下層地区だけは、他の街区と異なり、居住用として公的に整備された区画ではない。
一般の生活から、ありとあらゆる理由ではじき出された人間たちが、半ば追いやられるようにして集まり自然形成された一種のスラムである。
――王都に住まうものなら誰でも暗黙のうちに了解しているこの区分を、当然ながら○○は知る由もない。
下層へ続く長い階段は、一般層のもっとも外れた場所にあった。
それとみて分かるよう、あからさまに市街から隔離され、番兵も昼夜を通し配備されているのだが、どういうわけか今日に限って兵の姿は見当たらなかった。
「おっ、ついてるな」
赤毛は片目をつぶると、門の向こうへ○○の手を強く引く。
「わ、わっ…」
慣れない道に足がもつれたが、赤毛の歩調は緩まなかった。
周囲はすでに深い夜の闇の中である。門の先にわだかまる濃密な暗黒の中に点々と灯るのは、下層の住民たちの灯す暮らしの光だ。
ひどくかよわく頼りなく、まるで地の底に落ちた燐光にも似た瞬き。
――奇妙な既視感がある。
見つめていると眩暈がし、足元がふらついた。そこまで量を飲んだつもりはないが、酒の力なのだろうか。
――どこか果てしない暗黒の中へ落ちていくような心地。
「あの、赤毛、さん」
「ん?どうした?」
「随分、降りてきましたね」
「まあな」
しょうがねえさ、と赤毛は片手を上げると、
「荷が荷だからな。『上』には置いとけねえ」
「上?ってなんですか」
「細かいことは気にすんなって」