第3章 見知らぬ街
○○が連れていかれたのは、デルカダール中心街を離れ下層街も程近い場所にある酒場だった。
店構えこそ決して立派とは呼べないものの、繁盛ぶりはかなりのもので、まだ夕刻にも関わらず席はほとんどが埋まっていた。
○○と赤毛は店の奥、こじんまりとした二人掛けの席に対面で掛けると、
「適当に頼むぜ。○○、お前酒は?」
「え、あの…」
――記憶にある限り、○○には飲酒の経験はない。
もじもじと手を組み合わせていると、赤毛はさっさと手を上げて給仕女を呼んだ。
「おい、注文いいか?」
注文したのは干し肉、丸パンにシチュー、麦酒を二人前。
ほどなく湯気の立つ料理とよく冷えた麦酒がテーブルに運ばれてきた。
「まあ、とりあえず飲めよ。気が楽になるぜ」
「はあ…」
勧められるままに、○○は麦酒を一口含んだ。途端に、苦く爽やかな香味が広がり、喉の奥から胃が一瞬で燃え上がる。
目を白黒させる○○を面白そうに眺めながら、
「なんだよ、飲んだことねえのか」
赤毛は一息に自分の分の麦酒をあおった。
「みたい、ですね…」
○○はこめかみを抑えた。
酒についての記憶は残されていたものの、少なくともこの様子では、自分には縁遠い存在だったに違いない。改めて○○は思った。
しかし不思議なことに、一口飲むと次の一口が自然に恋しくなる。ちびりちびりと舐めるように飲み進めるうち、○○も結局ジョッキ一杯の麦酒を飲み干してしまった。
――酒の力は強烈だ。
凝り固まっていた緊張も警戒心も、柔らかく煮込んだ肉をほぐすように、ほろほろと崩れていく。
気付けば、○○は赤毛に全ての事情を打ち明けてしまっていた。