第3章 見知らぬ街
状況に頭が追いつかず、○○は青年を見た。青年も○○を見る。そして素早く片目をつぶって、
――話を合わせろ
言外の合図だった。
○○は即座に従う。
戸惑った兵隊の腕の力が緩んだすきに、○○は青年の後ろにさっと身を寄せた。
青年は片手で○○を庇いながら、もう片方の手でポケットから取り出した『何か』を素早く兵士の手に握らせると、
「田舎から連れてきたんですが、目を離したすきに迷子になっちまって…ずっと探したんだぞ、全くお前は本当に…」
――握らせたのは、恐らくは金貨だ。
兵士の拳にわずかな光が閃いたのを○○は見た。
「それじゃあ。俺たちは街に戻りますね」
再び人の好さそうな笑顔を浮かべ、青年は深く兵士に頭を下げた。
兵士たちは若干思案気に顔を見合わせたが、体裁を取り繕うかのように咳払いをし、
「…次から気をつけろ。」
言い捨てると、片割れに向かって首をしゃくり、来た道とは逆の路地に戻っていった。
――兵士の姿が消えると、どちらともなく長いため息が漏れる。
「…危ないところだったな、アンタ」
辺りに他の兵士たちの姿がないことを確かめてから、青年は○○に向かって
「驚かせちまったかな。俺は『赤毛』。一応この辺りに住んでるモンさ。」
「あ、あの…」
『赤毛』、と名乗った青年は、○○の全身を一通り眺めると
「あんた、名前は?」
「え?あ、あの。…○○と、いいます」
珍しい名前だな、と首をひねる。
「いや、その、さっき通りで慌てて走ってくアンタを見かけてさ。ちょっと引っかかったんで、追いかけてきたんだ」
「それ…どういうことですか?」
怪訝な顔で尋ねる○○に、赤毛はあきれた様子で、
「アンタ…○○って言ったか。今の王都の状況、知らないのか?」
――悪魔の子騒ぎさ、と赤毛は吐き捨てた。