第1章 星降る夜
その日、ロトゼタシアの夜空を七色の流星群が覆った。
唐突な大異変だった。宮廷占星術師の算盤にも、辻占の水晶玉にも、兆しひとつしめすことなくそれは始まった。
満天の星空から一つ星が落ちる。そしてまた一つ、ついには崩れ落ちるように、夜空は流れ落ちる七色の星々で埋め尽くされた。
北はクレイモラン、南はサマディーの外れまで、闇夜を覆った流星は、王都を寒村を、およそ人の足の及ぶところの隅々まで妖しい光で彩った。
このかつてない光の雨は、むしろ人々の心に不吉の予感を掻き立てた。流星が呼ぶものは、何も幸運ばかりとは限らない。
古くからの言い伝えがある。
――徴無く星の落ちるとき、それは大いなる凶事の前触れ――
誰ともなく祈りの言葉がつぶやかれた。その祈りを皮切りに、親たちは幼子を窓から引き離し厚いカーテンを閉めた。通りを行き交う人々もそれぞれの家へ足早に戻り、酒場も早々に暖簾を下ろした。
誰もかれもがそそくさとそれぞれの場所にこもったころ、とある小さな街を見下ろす丘に一人の旅人が姿を表した。
葦毛の馬を一頭供連れにした背の高い男である。名をシルビアという。このところ各地の話題をさらい始めた新進気鋭の旅芸人である。
シルビアは夜空を見上げ、
「なーんか急いだほうがよさそうね」
手を眉の上に当てて街を見やった。流星の雨に打たれ、人々の灯す街明りは一つまた一つと減り始めていた。
「そろそろベッドが恋しいものね~」
と、馬の背にまたがり手綱を取ったところで、
「どうしたの?」
馬の様子が妙に落ち着かないことに気付いた。若い牡馬は小さくいなないてはそわそわと辺りを見回す。
聞き分けも勘もいい馬である。何か気がかりがあるのだろうか。シルビアは前方の闇に目を凝らした。