第2章 デルカダールへ
「脱出不可能な地下牢獄から逃げ出したっていうんですから尋常じゃありませんよ。」
余計な混乱を招かぬように緘口令が出されたが、無駄だった。
結局噂は恐るべき速さで広まってしまい、それがこの奇妙な状況を生み出したのだった。
「そんな事があったの…」
「だから兵隊さんが多いんですね」
シルビアと○○は、振り返って宿の前の通りを眺めた。確かに、兵士たちの他にも武器を担いだ戦士や気の荒そうな武闘家といった、物騒な風体の男たちもたむろしている。
宿の主人はやれやれ、と首を振った。
「今、王都はてんやわんやですよ。どっから聞きつけたのか、懸賞金目当ての賞金稼ぎがどんどん集まってきてましてね。どこに悪魔の子がいるか分からないっていうんで出ていった旅人さんたちも、ほとんどが戻って来てるんです」
「それでこの人出ってわけね…」
ふう、とシルビアはため息を付くと。仕方ないわね、と手を上げた。
「そんな状況じゃあアタシも野宿するわけにもいかないわね…いいわ、一部屋で。」
「然様ですか!」
パッと表情を明るくする主人に、シルビアは指先を突き付けると、
「ただし、ベッドは分けて頂戴。いくらアタシもオトメとはいえ、同じベッドで寝るわけにはいかないわ」
はあそれはもう仰る通り、と主人はまた使用人を呼びつけて何事か命じる。
シルビアに鍵を手渡すと、自分も支度のために裏へと戻っていった。
シルビアは○○に向き直ると、
「ごめんなさいね。どうしても無理なら言って頂戴」
「いえ、無理ではないです全然」
両手を振る○○。
「ええ、本当?大丈夫?○○、あなた一応嫁入り前でしょ?」
「え…どう、だったんでしょうね?」
アタシに聞かないでちょうだい、と言いながらも、はっと脳裏を○○の裸身が掠めていった。
星屑の雨に照らされた、白い身体。流星のように一瞬だけの。
――今更か。
「シルビアさん?」
顔、赤いですよ、と気遣う○○の声にシルビアは背を向けた。
「とにかく部屋行くわよ…」