第9章 邂逅
「まあ、ベロニカちゃんたら」
シルビアは笑って、ベロニカの前にそっとひざを折って視線を合わせた。
「…ごめんなさいね。本当はもっと真っ当にご挨拶出来ればよかったのだけど」
ベロニカはどこか意外な面持ちで瞬き一つ、シルビアを見上げた。
シルビアは念を押すように微笑んでから立ち上がると、
「…こっちも色々と事情があってね。ま、とにかく、そこのあなた。」
──不意に、イレブンに向き直った。
「イレブンちゃん。アタシ、あなたに用があるのよ」
「…僕に?」
端正な顔を傾けて、イレブンは自分自身を指す。
「正確には、アタシじゃなくて、アタシのつれあいなんだけど──」
石像の方を見ると、やっとのことで地面に降りた○○が、ちょうどこちらに駆け寄ってくるところだった。
「あら、○○。今迎えに行こうと思ったのに――」
途端、シルビアの言葉を砂漠の風が遮った。駆け抜けた一陣の熱風が、幕を払うように、○○とシルビアの間の全てを持ち去った。
──スカートの裾がわずかに翻り、その白い脛、小さな足元が、心許なく砂を踏む動きが、ゆっくり鮮明に浮き上がった。
夢の中の動きのようだ。
目にしている間、世界から音が消える。
──○○?
怪訝そうに眉をひそめたカミュとベロニカの前を、小首を傾げたセーニャの前を、
──言葉を失ったシルビアの前を、熱風を連れて○○は通り過ぎた。
ついに、イレブンの眼前に立つと、○○は軽く会釈を一つ、
「はじめ、まして」
──そこで、イレブンの目が大きく見開かれた。
「君は確か…」
イレブンの反応は、初対面の相手に向けた物ではない。
「なんだ?おい、イレブン。知り合いか」
腕組みをしたまま、カミュは○○とイレブンを見比べた。
「いや…知り合いっていうほどじゃないんだけど…」
イレブンの目と、○○の目が交差する。
お互いにお互いを、はっきりと認識しあっていた。
あの夕映えの街路で出会った瞬間を、○○とイレブンは同じだけの強さで心に刻んでいた――
無言の一瞬で、二人の間にその感覚がつながった。