第9章 邂逅
――理解を置き去りにしてただ感情だけが震えるように揺れた。
○○は両袖を目に押し当て、必死に堪えた。目の奥が熱い。鼻の奥が痛い。胸が苦しい。こみ上げる痛烈な思いにつける名はない。ただただ、
――やっと、やっと、やっと会えた――
その感情は安堵というには切なすぎた。
悲愁というには優しすぎた。
まるで長い旅路の果てにようやく導きの光を見つけたような――
○○は振り切るように鼻をすすった。
「…シルビア、行こう」
ここで、のんびり感傷に浸っている時間はない。
――イレブンは仲間と共に、門の方へと歩みさるところだった。
あとを追おうと、一歩を踏み出した○○だったが
「待ちなさい、○○」
シルビアが手を引きその場に引き止める。思わず顔を上げた○○を、シルビアは目線で制すと
「――少し様子を見なさい、ほら」
唇に指を立て、声を絞る。近くの椰子の木陰に寄り添うようにして、○○を招いた。
――イレブンとその一行も、どうやら街を出ようとしているらしい。
門のすぐ脇に控えた憲兵に、声をかけている。
「シルビア、イレブンさんたちが」
「分かってるわ。でもあの子達も街から出られないはず」
――しかし。
イレブンたちと憲兵のやり取りは、二言三言の間で終わってしまった。憲兵は何か心得たらしき様子で、辺りを注意深く伺ったのち、こっそりとイレブンに耳打ちをした。
――あら?
シルビアは眉を大きく吊り上げた。
憲兵が身を離すと同時に、イレブン一行は揃って同じ方向を見やる。そこにはこんもりとした灌木の茂み――よくよく目を凝らせばさらに隠された扉の輪郭が垣間見えた。
整備用の通用門だろうか。何であれ正式な出入り口でないのは確かだ。
――へぇ…?
シルビアの口角がわずかに上がる。
「…あの子達、外に出してもらえるみたいね」
「えっ!」
驚く○○を尻目に、シルビアは辺りを見回す。
まだまだ騒然とした気配を残す正門前広場には、見る限り他に通行を許されたらしき者はいない。