第9章 邂逅
「こんなに憲兵ちゃんがいっぱい出てるってことは…とっても強い魔物ちゃんなのね?」
「まあ、そうなるが…いや心配には及ばぬぞ。すでに、先ほど帰還した斥候部隊が、我が王への報告を済ませたそうだ。じきに掃討命令がでるだろう」
ふうん、とシルビアは唇に手を当てた。
兵士はわずかに胸をそらすといかにも誇らかに、
「なにせ、わが国には騎士の中の騎士たるファーリス王太子殿下が居られるのだ。殿下はお若いが馬術剣技の優れたること並びなきお方ゆえ、臣民はただ安んじ待っておればよい。近く陛下がファーリス殿下に向け出陣のご命令を下されるだろう。彼の方が剣にかかれば、なあに、北の魔蟲とて恐るるに足らぬさ」
「…そうなの。それは良かったわん」
シルビアは、にっこり微笑みその場を離れると、衛兵に見えないように両手を軽く上げた。
「――つまり、先行き不安ってことね」
「シルビア…」
「仕方ないわ。この様子じゃ、街を出る人もいないだろうし、返って人探しには丁度いい…」
――シルビアの言葉が、唇を離れるか離れないかの瞬間だった。
○○の視線が不意に動いた。シルビアの顔から、背後の人混みへ。行き過ぎる人々のあわいから、ある一点へ。
――溶け込むように自然で穏やかな佇まい、それでいて決して見過たぬ存在感。
○○は、無言でシルビアの袖を引いた。
――あの人が、居る
旅装束の男、籠を抱えた女、荷車を押す青年、馬を引く若者、幼子の手を引く母、一人一人の脇を過ぎながら、『あの人』がこちらへやって来る。
――暁天の光浴びた若草を思わせる瞳。
練り絹に似た髪は不穏の風さえ軽やかに受け流し、その体躯はしなやかな若木、それでいて、決して揺るがぬ大樹を思わせた。
「イレブンちゃん…だわ」
シルビアも、頷いた。
――彼が、イレブン。
○○はその名をそっと呟いた。途端に、胸の奥から強い感情が沸き上がった。
――其は我が光、我が希望、我が明日への階ならん
「…○○?」
ぎょっと目を剥くシルビア。
見れば、○○の目からは滂沱と涙がこぼれていた。
「えっ…な、なにこれ…」
○○は、慌てて次から次へと溢れてくる涙をぬぐう。
「砂か何か入ったの?」
「ち、違…」