第2章 デルカダールへ
太陽が昇ると、辺り一面は濃い朝もやに包まれた。
日差しは濡れた葉の上で輝き、辺り一面に乱反射する。やがて黄金色の霧の中に、壮麗な城塞のシルエットが浮かび上がった。
――デルカダール城だ。
馬車はとうとう王都へと到着したのである。尖塔には色とりどりの旗が翻り、各地から訪れた人々を迎え入れていた。
「ねえ、ちょっと」
シルビアは○○の肩を掴むと、軽く揺すり起こした。
「なん、ですか…?」
「ね、見てごらんなさいよ。ついたわよ」
馬車から身を乗り出した○○は、改めて目にする王都の賑わいに目を丸くした。
「うわあ…すごい…」
「ほんと、いつ来ても賑やかなところよねえ。ここは」
シルビアの手を借りて馬車を降りる。
正門付近は様々な装いの旅人たちであふれかえっていた。はるか南の隊商らしき人々もいれば、いかめしい甲冑に身を包んだ戦士、薄汚れたローブをまとった魔法使いの老人もいる。○○は物珍しそうに辺りを見回すと、
「大きい国なんですね」
「そうよ。大陸随一…いえ、世界随一かもね」
と、シルビアは○○の顔を見た。
人出に興奮しているのか頬が赤く上気している。丸い目を輝かせて、人目をもはばからず興味の矛先を四方に奔らせ、
「ダメだ…頭が追いつかない…」
素直に興奮したようにつぶやいた。
シルビアは油断なく周囲に視線を遣ると、
「さあさあ。あんまりキョロキョロしてると、目を付けられちゃうわよ」
そっと○○の手を取って大通りの方へ誘う。○○はまるで気づいていないが、すでにその全身にはあちこちから、あからさまに値踏みするような視線が投げかけられていた。
若く愛らしく無邪気、ついでに記憶もないと分かれば、これ以上ない程おいしい獲物だろう。シルビアは、さりげなく体の内側に○○をかばうと、
「行きましょ、お菓子なら後で買えばいいわ」
名残惜しそうに揚げ菓子の露店に目をやる○○の背中をそっと押した。