第9章 邂逅
「つまり、その男の人が、王子様の代わりに走ってた――ってこと?」
「そーいうこと!」
背をそらしてシルビアは寝台に手を突くと、
「あんまり呆れたから、お小言いって出てきちゃったわん…」
「そうだったんだ…」
どういうわけか、○○は何か真剣に考え込む風でもあった。
「ねえ、その人、シルビアは見たことあるの?」
「え?その人って?」
「替え玉になってたって人。」
「あるわけないわ。初めて見た子よ」
「有名な騎士だったりしないの?」
「違うと思うケド…」
――漏れ聞いた話では旅人だとは言っていたが。
何の目的にせよ、騎士団の正規兵となるにはまだ少しばかり歳が足りないだろう。青年の顔立ちには、深い決意と陰に交じって、まだまだ拭いきれないあどけなさがあった。
シルビアは少し体勢を戻すと、
「ずいぶん気になってるのね。どうしたの?」
少しばかりからかってやろうと○○の鼻先に指を伸ばしたところで、
「その人の特徴、他に覚えてる?」
「ええ?」
――○○の表情は、恐ろしく真剣だった。
「綺麗な顔、不思議な色の目、それから?」
「ちょ、ちょっと待って頂戴ね、えっとぉ…」
シルビアは指を折りながら青年の姿を思い起こす。
肩口で切りそろえられた柔らかい茶色の髪、背はそこまで高くはないが、体つき自体はけっしてひ弱ではなかった。日常的に力を使っている、あるいは戦いなれた者の身体である。
そこまで思い返してはっと、シルビアは顔を上げた。
「――『イレブン』。そう、イレブンちゃんって呼ばれてたわ、あの子。」
「イレブン…?」
そうよ、とシルビアは頷いた。
――確かに、不思議な青年だった。
気品や穏やかさ、柔和な外見の中にはっきりと正反対の概念が調和している。力や影、戦いの匂い。あの年頃では本来、まだその切れ端にさえ触れることはない不穏の気配――
ぽとりと、対面から言葉が落ちた。
「会いたい」
――○○だ。