• テキストサイズ

【DQ11】星屑の旅人

第9章 邂逅


「――か、替え玉!?」
「しっ、声が大きいったら」

シルビアは辺りを見回すと、
「…そうなのよ…」

――レース直後、シルビアはねじ込むように王子の控室に向かった。
居ても立ってもいられなかったのだ。あの如何にも『お坊ちゃん』然とした王子殿下が、あれ程の疾駆を見せるとは。シルビアは強く感銘を受けていた。

「…お坊ちゃんって、シルビアは王子様を見たことあるの?」
「ええ、一度だけ。レース前日にショーを見に来てたのをチラッとね」

――お忍びだったのだろう。その時は友人だろうか、数名をともなっていたが警護の兵の姿はなかった。
ショーの最中に盗み見た彼は、見るからに人好きのしそうな、快活で甘い顔立ちの男だった。そして、それ以上でもそれ以下でもない。見たままの、育ちの良い、苦労知らずの王太子殿下――
だが、王子はいざ馬場に出るとまるで別人のように変貌した。悍馬を駆る姿は若獅子のように伸びやかで勇ましく果敢。観客以上にシルビア自身がすっかり魅了されてしまった。
「ま、別人みたいっていうか…」
――実際別人だったわけだ。
控室の扉を勢いよく開けると、そこには件の王子、そしてもう一人――王子とよく似た背格好、そして王子と近い年頃――そして王子と同じあの甲冑を身に着けた青年が並び立っていた。
「お付きの人…な訳ないか…」
「そーね。そもそもお付きは甲冑着ないもの…」
王子の側に立った青年――いかにも優しげな顔つきで、見ようによってはいっそ少女めいてさえいる――の瞳をシルビアは思った。
朝焼けを飲む海の色。穏やかな永遠の遠浅にも似て、隠しようもない輝きを帯びている。
宿った強い意思の力は一瞬にしてシルビアの意識を捉えた。

――どちらが真に王家の血に連なる者か

ファーリスの顔を見知っていなければ錯誤したかもしれな
い。
シルビアは理解した。

――レースに出てたのは、この子の方だったのね――

驚きを通り越した後にやってきたのは、深い落胆だった。
/ 122ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp