第9章 邂逅
「皆夢中で見てたもの。私も、どうなっちゃうんだろうって、もう目が離せなくて…」
応援聞こえたかなあ、と照れたように小首をかしげる○○。
「ちゃんと聞こえてたわよん」
――シルビアは深く満足した。
『シルビア!頑張れ!』
轟く大歓声を矢弓の如く割いて飛んだ声、それが○○の声だと気づいた瞬間は幻かとさえ思ったが。
――吸い寄せられるように、シルビアの目は幾千の観衆のなかに○○を見つけていた。
「ありがと。」
ふ、と口元を綻ばせる。
――やっぱり、幻なんかじゃなかったのね。
あのとき、シルビアは○○を見た。○○もシルビアを見た。繋がった瞬間を確かに共有した感覚は、弾けるように快かった。
「嘘、あの距離だよ?」
「アタシ、結構目がいいのよん」
笑う○○は、そこでふと両手を叩いた。
「そうそう!あの王子様との一騎討ち!ていうんだっけ。特にすごかったなぁ」
「えっ…」
――王子、の名を聞いた途端に、シルビアの顔が曇る。
「…どうしたの?」
○○が、小首をかしげてこちらを見た。シルビアは、
「○○、悪いんだけどお水を一杯、いただけないかしら」
「え、あ、うん?」
○○が注いだ水を一息に飲むと、深いため息を一つ、○○の耳元でとんでもない事実を打ち明けたのだった。