第9章 邂逅
「わっ…な、なにこれ」
「副賞よん。それだけもらってきたの。」
花冠をかぶった○○の姿に、シルビアはしばし見入った。
――まるで初めて夜を知った妖精だ。
室内灯の淡い光は○○の面差しに、複雑な影を落としている。
影は呼吸に合わせてゆるゆると移ろう。
シルビアは、その光景を目を細めて見守った。
「なんかいい匂いがするね」
「月桂花じゃないかしら。ほら、これ。」
と、冠に挿された薄い黄白の花を取って○○に差し出した。
「葉っぱごと乾燥させて、虫よけにしたり、お料理とかにも使ったりするのよん」
「へえ…」
と、○○は花冠を外してしげしげと眺めた。シルビアは寝台に腰を下ろし
「優勝したわけじゃないから、ちょっぴり地味でしょ」
「そうかな。私は好きだよ」
○○は花冠を、シルビアの寝台と自らの寝台の間の卓に置きなおすと、
「レース、すごかったよ」
改めて、シルビアに向き直る。
「うふふ。最後が惜しかったけどねん」
シルビアはわずかに身体を○○の側に傾けると、
「…お馬ちゃんから落っこちずに済んだでしょん?」
――わざと意地の悪い笑顔を向けて見せた。○○は苦笑し、
「ごめんね、私が間違ってた。シルビアはすごいよ」
と、自分も向かいの寝台に腰を下ろした。