第8章 騎士の国の旅芸人
「…王子だ!ファーリス王子の勝利だ!!」
審判席から王旗が翻り、それを見た観客がそれぞれに叫んだ。
――割れんばかりの快哉。
老若男女の喉を揺るがし溢れた声たちはごうごうと、混ざり合って地鳴りのごとく一帯を揺るがした。
ほとんど同時に掻きならされる拍手と歓声とファンファーレで、会場は音の大洪水と化す。
駈歩でコースを回りながら、髪をかき上げるシルビアの姿を○○は見た。
すらりと伸びた背筋。奇抜な芸人装束の上からでもわかる鍛えられた体つき――
『デルカダール正騎兵の走法だ』
男の声がよみがえり、○○ははっと顔を上げた。
――それは、芸人暮らしの中で普通身につくものなのだろうか――
騎手と馬たちの姿が馬場から消えてもなお、会場の興奮は暫く収まりそうもなかった。