第2章 二ヶ月目の戦い
夜になっても人間に戻らなかった。一松さんが何か言ってる。
「××? ××××××?」
何を言ってるか分からないし。
だが彼は猫に慣れてるだけあって、世話の準備も迅速だった。
ひっくり返らない水飲みと餌皿。押し入れに砂箱。爪研ぎ、ネズミのおもちゃ。
……ここまで完璧に猫扱いされると逆に悲しくなる。
あ。ちょっと身体がぶるぶるしてきた。失礼、押し入れに行って参ります。
こらおそ松さん!! デリカシーなく指さすな!!
フーッと威嚇すると手を叩いて喜ばれた。
あとで噛んでやる、と思いながらコソコソ押し入れに。
ん? 足音がする? チョロ松さんが外出から戻ってきた。
「××××××~、××××」
何を言ってるか分からんが薬を指し、首を左右に振ってる。
私を戻す方法を探しに行ったけど『ダメだったよ~』的な?
「×××!! ××××!!」
十四松さんが猫じゃらしを持ってスライディングしつつ何か言ってくる。
猫にも分かるわ。『遊ぼう!! 遊ぼう!!』ですね。そうですね? にゃー!!
目の前を揺れる猫じゃらしに、全力でテシテシ。
皆も何となくこの光景を眺め、ちょっと時間が経った。
あ、動いたら疲れた。あくび。猫じゃらしはもういいや。
「××××~」
もういいって言ってるでしょ。一松さんとこで寝るから。
未だに戸惑った様子の一松さんの膝に乗り、大あくび。
ゴロゴロしながら丸まって……。
…………
暗闇に子猫の鳴き声が響く。
にゃーにゃーにゃー。
開けてー。開けてー。あーけーろー。
やおら、ふすまが勢いよく開き、
「××××!!」
おそらくは『うるせえ!!』
おそ松さんがお怒りだ。
さっき一松さんの腕の中で寝て、起きたときはお父様とお母様のお部屋だった。
どうやら一匹だと危ないと、預けられたみたい。
子猫になった私に、一切動じなかったとすれば、その度量はさすがお母様である。
でも寂しくて、お布団から出て、二階の六つ子の部屋に来ていた。
『下で寝なよ、もう~』的なことを言ってるんだろうチョロ松さんの足をすり抜け、眠そうに目をこする一松さんの足に。
ゴロゴロ言って身体をこすりつける。
一松さんは私を抱き上げ何か言ってる。
『危ないから、母さんのとこで寝て』的な内容だと思う。