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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



「じゃあパートに行ってくるから、お昼は適当に作って、楽にしててね」
「はい、いってらっしゃいませ!」

 サ○エさんのごとき引き戸玄関をガラガラと開け、お母様はパートに行ってしまわれた。

 そう、お母様はパートをされている。
 よく知らんが、色々家計が大変らしいのだ。
 新たに増えた『娘』の存在もさぞ家計を圧迫することだろう。
 ざ、罪悪感で胃がキリキリと!!
「ヤバいヤバい。早めにアルバイトなり仕事なり始めないと」
 お借りしたエプロンの紐をしめつつ、気を取り直す。

 とりあえず今日のところは掃除を任せていただいたが、大きい家ではないようだし、午前中には終わるだろう。
 買い物メモをいただいたので、買い出しついでに、コンビニで無料の求人誌をもらってこよう。

 そのとき、廊下の向こうからドタドタと足音がした。

「ふぁ~あ、よく寝た……」
「母さーん! ご飯まだー?」
「バカ、今日はパートの日だろう」
「ご飯温めるの、面倒くせえ……」
「野球? 野球する?」
「……あ」

 六人分の足音が止まる。

「……あ」

 私も止まる。

 居間の振り子時計が十つ分の鐘を鳴らす。
 ボサボサ頭の、パジャマ姿の眠そうな成人男性六名。
 私は彼らと相対し、しばし固まった。

「おはよう。ええと、松奈、だっけ?」
 一人が頭をかきながら言った。
「そうです。お、お、お、おはようございます。ええと……おそ松さん、でしたっけ?」
「いや、僕はトド松。おそ松兄さんはこっち」
 指さされた人が、『あ、ああ』と、戸惑ったようにうなずく。
 いや『こっち』と言われても区別がつかねえ。
 いったいどこで見分けるんだっ!!
 
「……あのさ。どいてくんない? 俺たち、朝飯まだなんだけど」

 冷え冷えした声が響く。
 声の主を見ると、半眼の人がこちらを睨んでいた。

 その態度と声色には、あからさまな警戒と敵意。毛を逆立てた猫を見る思いである。
「ちょっと。一松兄さん」
 トド松と名乗った人が、『一松』という半眼の人を肘でつつく。
 だが『一松』さんは警戒のオーラをダダ漏れにさせたまま、こちらを見る。
 低い低い声で、

「何を企んでるか知らないけど、俺ら新しい家族とか、マジいらねえし」

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