第1章 最初の一ヶ月
「じゃあパートに行ってくるから、お昼は適当に作って、楽にしててね」
「はい、いってらっしゃいませ!」
サ○エさんのごとき引き戸玄関をガラガラと開け、お母様はパートに行ってしまわれた。
そう、お母様はパートをされている。
よく知らんが、色々家計が大変らしいのだ。
新たに増えた『娘』の存在もさぞ家計を圧迫することだろう。
ざ、罪悪感で胃がキリキリと!!
「ヤバいヤバい。早めにアルバイトなり仕事なり始めないと」
お借りしたエプロンの紐をしめつつ、気を取り直す。
とりあえず今日のところは掃除を任せていただいたが、大きい家ではないようだし、午前中には終わるだろう。
買い物メモをいただいたので、買い出しついでに、コンビニで無料の求人誌をもらってこよう。
そのとき、廊下の向こうからドタドタと足音がした。
「ふぁ~あ、よく寝た……」
「母さーん! ご飯まだー?」
「バカ、今日はパートの日だろう」
「ご飯温めるの、面倒くせえ……」
「野球? 野球する?」
「……あ」
六人分の足音が止まる。
「……あ」
私も止まる。
居間の振り子時計が十つ分の鐘を鳴らす。
ボサボサ頭の、パジャマ姿の眠そうな成人男性六名。
私は彼らと相対し、しばし固まった。
「おはよう。ええと、松奈、だっけ?」
一人が頭をかきながら言った。
「そうです。お、お、お、おはようございます。ええと……おそ松さん、でしたっけ?」
「いや、僕はトド松。おそ松兄さんはこっち」
指さされた人が、『あ、ああ』と、戸惑ったようにうなずく。
いや『こっち』と言われても区別がつかねえ。
いったいどこで見分けるんだっ!!
「……あのさ。どいてくんない? 俺たち、朝飯まだなんだけど」
冷え冷えした声が響く。
声の主を見ると、半眼の人がこちらを睨んでいた。
その態度と声色には、あからさまな警戒と敵意。毛を逆立てた猫を見る思いである。
「ちょっと。一松兄さん」
トド松と名乗った人が、『一松』という半眼の人を肘でつつく。
だが『一松』さんは警戒のオーラをダダ漏れにさせたまま、こちらを見る。
低い低い声で、
「何を企んでるか知らないけど、俺ら新しい家族とか、マジいらねえし」