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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



「寝過ごしたっ!!」

 真っ青になる。全く知らない世界の、全く知らない一家の厄介になる二日目。
 早速寝坊するなんて、お母様の心象を悪くするようなことをっ!!
 大急ぎで着替え、バタバタと走る。

「お、おはようございます!!」

 居間の扉を開けると昔懐かしのちゃぶ台があり、私のものらしい朝ご飯がのっていた。
 お茶碗にお新香(しんこ)、ノリに焼き魚に大根おろしと、今どき珍しい朝から和食メニューである。
 すると奥からエプロンで手を拭いたお母様が出てきて、
「あら松奈、早かったわね。もう少し寝ていてもいいのよ? 今、お味噌汁を温めるからね」
『お母さん』そのものの態度にじわーっと涙ぐみそうになりつつ、
「は? え、いえ、お、遅かったですよ。申し訳ありません!」
「そんな他人行儀でなくてかまわないわよ。遠くから私たちを探しに来て疲れたんでしょう?
 それにあの子たちに比べたら全然早起きよ」
 
 あの子たち? それはさておき、説明しよう。
 この家に居候するため、私は多少設定を作っている。

 私は、お父様が出張先でべろんべろんに酔ったとき、行きずりの女と出来た子。
 しかし私は母と早くに死に別れ、天涯孤独の身の上に。
 色んな場所をたらい回しにされ、まぶたの父の面影だけを頼りに、長い長い旅をし、やっと再開することが出来た。
 そんな私の悲しい境遇と一途な思いに心打たれ、お母様も私を娘として受け入れることを決意したのであった!

 ……今どき児童向けアニメだってやらんわ、こんなベタな設定。
 だがそう説明したんだから、通すしか無い。
 と思いつつちゃぶ台でご飯をかきこむ。

 食べ終わって緑茶を飲んでいると、居間の向こうで、お母様が洗濯物の大荷物を抱えているのが見えた。
 私は慌てて立ち上がり、

「お母さん、お世話になるんだから家事は私がやります。洗濯はまかせて下さい!」

「あらそう? あの子達にも見習わせたいねえ。じゃ、洗濯機はあっちにあるからお願いね」

「はい!」
 私は張り切って洗濯機の場所まで行き、

「……二槽式?」

 この家に住むにあたっての新たな脅威に固まった。

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