第2章 二ヶ月目の戦い
次の日、起きてみると私はきちんと布団に寝かされていた。
不思議なことに、庭にはまたズタボロにされた一松さんが転がっていた。
私はそれを横目に歯を磨きに行く。
今日も松野家は平和であった。
…………
私の部屋で、私と一松さんは向かい合って正座していた。
「じゃ、もう変な仕事はしない?」
「しません、しません」
「約束する?」
「します、します」
「じゃ、指切り指切りっ!!」
最後にテンション高く叫ぶのは、十四松さん。
大事な話の最中だが十四松さんがいる。何でかって。
かつて私たちの関係が知られたとき、長男が大声で言い放った。
『二人がつきあうのは許してやるが、家をラ○ホにするのは許さーんっ!!』
何であんたの許可がいるんだ、おそ松さん。
とはいえ、彼のデリカシーゼロな宣言は、他の六つ子から熱狂的な賛同を得たらしい。
私たちは基本的に、家の中で二人きりになるのを禁じられている。
一松さんが用あって私の部屋に来るとき、十四松さんを連れてくるのが慣例になっていた。
で、『レンタル妹』を辞めろって。
「ん」
「あ、はい。指切りですね」
まじめに小指を出され、絡める。あ~、何か少女漫画って感じでドキドキするなあ。
「ゆ~びきりげ~んま~ん」
陰鬱な歌声が響き渡るまでは。
一松さんの顔は笑顔ゼロ。シュールだ。拷問だ。
「う~そついたら×××××飲~ます~」
下品な替え歌までしてやがる。冗談のつもりならカラ松さん並みの痛さ。
十四松さんもいるっつうのに。
ちなみに十四松さんは目を輝かせ、歌に合わせて手を叩いている。
「ゆ、ゆびきった……」
どうにか歌を終わらせ、ちゃぶ台に身を投げ出す。
「でさ。本当に何で大金が必要なの」
あ、肩もんできた。う。いい! そこもっと強く!!
「あ、ええと……」
「もしかして、うちに来た事情がらみ?」
「…………」
確かにそうなんだけど、一松さんの想像する『事情』と私の『事情』は絶対に違う。
「うちには男が六人いるし、金策を頼める知り合いもいるから、協力出来るけど」
うーん。借金が出来たところで踏み倒し確定だし。
まさか博士に代わりに返済しろとか言えないしね。