第2章 二ヶ月目の戦い
「この外見なら、もうすぐ戻りますよ……ほら」
ポンッと音がして、平凡な私に戻る。
『あ~あ』
コラ、がっかりした音を出すな、クソ兄ども!! 何か傷つくしっ!!
「今の方がいいよ」
ボソッと呟く声。一松さんが私の横に来ていた。
ま、またお約束な、と思いつつ、顔がどうしてもニヤけてしまう。
そこでおそ松さんが、気まずそうに、
「あ、あのさあ。松奈。このことは母さんには内緒に……」
成人男性が母の顔色をうかがう滑稽(こっけい)さよ。
「ご安心下さい。一から十まで全暴露です」
『松奈ーっ!!』
六つ子に泣きつかれ、しばし優越感を味わう私であった。
…………
…………
「それで、何すか。このプレイは」
自室に戻り、パジャマに着替えた私は、お布団に正座している。
「……人身御供(ひとみごくう)」
目の前には一松さん。
畳に縛られた状態で転がっている。
そう、彼は縛られている。
ついさっき、ふすまが開いて、何かが投げ入れられたと思ったら、一松さんが転がっていた。パジャマ姿+なぜか紫のリボン。全身をグルグル巻きにされている。
どういう趣味だ。本当にAV見過ぎだな、クソ兄弟!!
兄弟の一人を差し出す理由が『親にバラされたくないから』というのも涙を誘うし。
そして一松さんが、何かを期待するように頬を紅潮させているのは何故。
「静かにやれば、下の階にバレないと思うけど」
止めんか!!
「こっちは男じゃ無いんだから、こんな真似されて嬉しいワケが無いでしょう」
と一松さんのリボンをほどいていく。
「ええー」
いや、なぜガッカリしたような声を出す一松さん。
「でも」
と解放した一松さんに抱きつく。
「っ」
「膝枕させてくれるなら黙っていてもいいですよ」
一松さんを座らせて、頭を乗せる。
「…………」
ためらいがちに髪を撫でてくる。
「えと。あの仕事は、危ないから辞めた方がいい。いや、辞めろ」
あったかいあったかい。しびれて立てなくなるまで、膝枕をしてやろう。
「大丈夫、大丈夫」
「ティッシュ配りでも問題無かっただろ。何でそこまで金がいるの」
「それはですね――」
答える前に寝てしまった。