第2章 二ヶ月目の戦い
でも、わざわざ社員を雇うよりイヤミ社長自身が美女になれば、売り上げが
丸儲けでは?と思うんだけど。
でも一度そういう話をしてみたところ、真っ青な顔でガタガタ震えだし、
『二度とその話はしないでほしいざんすっ!!』と叫ばれた。謎である。
「あ、もう夕暮れですか。仕事をしてると早いですね」
見上げればあかね色の空である。
「じゃ、そろそろお開きざんすね。じゃあ、また明日、頼むざんすよ」
「お疲れさまでしたー」
手を振って解散。河川敷を上がっていく。
今日の儲けは○万円かー。
座ってお話しするだけだけど、人見知りの小娘にこういう職種は辛いっす。
三百万もまだまだ遠い。
いっそこの世界にずっといてもいいのでは?
でもなあ。松野家に居候して、仲の良い大家族を毎日見ていると、どうしても思ってしまうのだ。『私にも、こんな暖かい家族が待ってるのでは』と。
松野家の人たちがどんどん好きになっていくからこそ、ちゃんと元の世界に戻らなきゃ。
長い影を道に落としながら、とぼとぼと歩いて行く。
とにかく、六つ子のお兄さんたちに心配だけはかけないようにしよう。
何だかんだで家族でも何でもない私を可愛がって下さる、世界一大切なお兄さんたちなのだから!
と思ったとき、悲鳴を聞いた気がした。
「ん? あれ?」
やだなあ。考え事をしてたら、道を行き過ぎた。もう夜じゃ無いか。
早く帰らないと、一松さんが心配する。
一松さんなあ。ティッシュ配りのバイトを止めたから、お迎えはもういいと言ったら、
また落ち込んでたし。どうフォローしたものか。
松野家への道に戻ろうとしたら、声が聞こえた。
「てやんでい、全員、ツケを払うまで下ろしてやらねえからなっ!!」
「んな……っ!!」
現代にありえない光景を見た。
ひと気のない道ばたに磔(はりつけ)が六つ。
そして焚き火が六つ。
えーと……。
おでん屋台がある。
どこかで見た気がする小さなお客様。
彼は怒りのまなざしで火を燃やし続けている。
「ち、チビ太、落ち着け!!」「必ず払うから!!」「お慈悲を~!!」
と泣きながら叫ぶ、同じくどこかで見た気がしないでもない成人男性六名。
全員、木の杭に縛られており、下では焚き火が威勢良く燃えている。
ほどなく大惨事になるのは目に見えていた。