第2章 二ヶ月目の戦い
互いに見えなくなるまで手を振りあう。そしてようやくチビ太さんが見えなくなり、
「あっ!」
ポンッと音がして、私はいつもの平凡な私に戻ってしまった。
「ちょうど時間切れざんすね。ギリギリだったざんす」
「はあ~」
疲れてベンチに倒れ込む。
今までの私は、謎の薬の力で『誰もが振り返る美少女』に変身していたのだ。
一方、イヤミ社長は小躍りである。
「ウヒョヒョ!! おしゃべりだけで二時間二万とは、悪くない稼ぎざんすね!!
ほれチミ、嫌だけど一万円受け取るざんす!!」
「あ、ども」
社長から万札をいただき、大事に財布に収める。
私はまたベンチに腰掛け、すでにお札が何枚か入った財布を眺めた。
「世の中には変な需要があるもんですね」
「ヒョヒョヒョ。客は可愛い妹という夢を手に入れ、我々はお金を手に入れる!
どっちも嬉しいWin-Win(ウィンウィン)ざんす!!」
イヤミ社長は、ふところから謎の錠剤の入った瓶を取り出し、頬ずりする。
そこには、飲んだ人を美少女に変身させるスゴい薬が入ってるのだ。
お気づきの通り、私はまだイヤミ社長とツルんでいる。
今回は『未成年とお散歩』という露骨に怪しい商売ではない。『レンタル妹』である。
…………。
ほ、ほらお散歩とかだと犯罪の臭いがするけど、『レンタル』とつくと、ちょっと健全っぽいでしょ!?……は、ははは。多分。
身バレもしないよう、イヤミ社長が通販で購入した、高額の『美少女薬』を使用。
平々凡々な私も、アイドルみたいな美少女に大変身である。
でもヤバいことはしませんよ? 基本はおしゃべり。
妹になりきった私とお話しして一時間一万円。
なおデートの場合、別途デート代加算の上、食事代や遊興費は全てお客様持ち。
これで客が来るのかと思ったが、毎日、そこそこの客が来ている。
ティッシュ配りより遙かに実入りが良かった。
男とはまこと、美少女に弱い生き物であった。
ちなみに取り分は私と社長で折半(せっぱん)。
社長は『美少女薬』の仕入れや客引きに加え、仕事中は私の安全のため、ちょっと離れた場所に待機してくれているので。
私に何かあったら六人の悪魔が襲いかかってくると、身を持って知っているので、彼もまた必死である。