第2章 二ヶ月目の戦い
「何かこう、楽して大金を稼げるような仕事は……」
「そういう考えはダメだよ、松奈ちゃん。大きなリターンには大きなリスクがつきまとう。
人間、汗水垂らして真面目に稼ぐのが、大金への一番の近道なんだ」
メッと、叱るチョロ松さん。お兄さんらしいお説教だ。
あとはあなたが、無職かつパチンコ店常連でさえ無ければ完璧なのに。
「急に変なことを言い出すんだね。何かお金が必要なの?」
詮索(せんさく)ではなく、普通に不思議そうなおそ松さん。
暇そうにしていた他の兄弟が、私に視線を向ける。
猫をじゃらしてた一松さんまでも。な、何か言い訳を考えねば!
「お母さんとお父さんには本当に可愛がっていただいているので、親孝行に、旅行にでもご招待出来ないかと思いまして」
『っ!!』
兄弟全員が、一斉に見えない矢を受けて昏倒する。
それを良いことに、私は求人誌をめくり、考えに没頭した。
次元転送装置の部品購入に、三百万円が必要。
額に腹が立つ。
一千万なら『用意出来るか! ここに永住するわ!』と吹っ切れたかもしれない。
百万なら『頑張れば稼げるかも』と滞在を延長して真面目に働いたかもしれない。
だが三百万は微妙だ。今の暮らしを続けコツコツ働いたとして、何年もかかる。
そんなにかかっていたら、元の世界で、私の存在が忘れられてしまう。
もしかして、私はデカパン博士にだまされてるんだろうか?
ほら、推理小説や映画にもあるだろう。記憶喪失の人間を利用し、偽の記憶をすりこんで犯罪者に仕立てたり、組織の手先に使ったり、お金を稼がせたり。
……ないな。あの研究者は、紛(まご)うカタ無き変態だが頭脳は本物だ。
手の込んだ嘘で小娘をだます理由が無い。
だとすると、やはり三百万がいる。
でもチョロ松さんの言うとおり、高いリターンには高いリスクがつきもの。
だが何とか、何とかしなければ。むろん、リスクは無しの方向で。
一人悩む私に、一松さんが何か言いたそうに口を――。
「どうした、妹よ。何か悩みでもあるのか?」
フッと笑う声。カラ松さんである。
……家の中でサングラスをする意味があるのだろうか。
そしてキザっぽく外す理由も。
でも、彼の言葉は本物だった。