第2章 二ヶ月目の戦い
いっそ、こっちからドンドン攻めてく方向で、今度、バイト代で遊園地にでも誘ってみようかなー。
でも賑やかそうな場所、苦手そうですよね、一松さん。
いやいっそ逆方向に振り切れたりして。浮かれてハイテンションになりすぎ、
ミュージシャンの格好で待ち合わせ場所に現れたりとか。
ぷっ! ふ、ふははははははは!! 無い無い無いっ!!
天地がひっくり返ってもあるわけないっ!!
「何さっきからニヤニヤしてんの」
「いえいえ。こうして手をつなげるのが嬉しくて」
「そ、そう?」
うわ、まんざらでもない顔をされた!! プチ罪悪感!!
1000%起こりえない想像で、恋人をもてあそぶもんじゃないな。反省。
他のご兄弟の話だと、一松さんは、普段物静かな分、カッ飛ぶときはカッ飛ぶらしいのだが。
例えばクリスマスのシーズンにはサンタの格好をして街を徘徊し、カップルに絡んでるとか何とか。
……。私が純真無垢で何でも信じるからって、ありえない冗談を吹き込まないでいただきたい。
本当にやってたら今この場でドブ川に蹴り落として、即、別れるわ。
と、恋愛脳で延々と一松さんのことを考えているが、現実には会話もなく、手をつないで淡々と歩いてるだけ。
――でも、これはこれでいいのかも。
このくらい淡白な方が、いっそ未練が残らなくていい。
私はあと二ヶ月で、松野家を出て行くことになるのだから。
…………
家に戻って食事を終えれば、いちゃつく要素などなく、私は六つ子の部屋で
だらだらと寝そべる。
「こら、女の子がだらしないよ、松奈」
と言いつつ、あなたもごろんと横になって漫画を読んでいるじゃないか、おそ松さん。
一松さんは遊びに来た猫をかまい、私に話しかける様子はない。
「何か、いいアルバイトって無いもんですかね」
ソファの後ろに回り、チョロ松さんのめくる求人誌をのぞき込む。
チョロ松さんは真面目そうにうなずき、私に、
「そうだね、景気は回復傾向と言っても、まだまだブラックな場所も多い。
賃金とか待遇をちゃんと見て、会社の下見やネットの情報なんかも慎重に調べて、まっとうな勤め先を選んだ方が良いよ、松奈ちゃん」
「そうですね」
と、うなずいてはみるが、あなたは少々検討しすぎではなかろうか、チョロ松さん。