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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い



「ありがとうございました。お疲れ様でーす」

 バイト先の事務所を出ると、外はもう暗くなっていた。
 お給料をふところにしまい、歩き出すと、ほどなく誰かいることに気づく。

「一松さん」
「ん」

 いつもの紫の松パーカーにサンダル、猫背。

「お待たせしました。じゃ、帰りましょうか」
「ん」
 私たちは歩き出す。

 松野兄弟の(かろうじて)公認により、つきあい始めて幾日か経った。
 私たちはもう偽の兄妹ではない。恋人同士だ!

 といっても、健全な関係ですからね!?

 だって家で二人きりになろうものなら、五人の悪魔が完璧な連携で阻止してくる。
 ホテル? 無職&フリーターには出費だし、そもそも一松さんが誘ってこない。
 
 じゃあ何をしているか。
 私がバイトを終わった後、一松さんが迎えに来て一緒に帰る。
 休日は猫スポットを巡ったり、川辺を散歩したり。
 
 って、児童の恋愛かっ!!
 今どき少女漫画でも、もう少し不健全要素が入るわっ!!

 よし、せめて手をつなごう♪

 私はさりげなく手を――奴は両手をポケットに突っ込んだまま、無反応。
 負けない。
「一松さん」
 笑いかけ、意味ありげに手を差し出す。
「…………」
 だから! 手をつなぐくらいいいでしょうが!! 何その、嫌そうな顔!!
 でも通りの店舗照明に照らされる一松さんの顔を見ると、ちょっと赤い。
 普通に照れてる? それとも『女と手をつなぐなど軟弱な!』と古風な考え?
 あるいは『自分のようなクズと手をつないで歩くと、松奈が恥をかくのでは』と、また斜め45度の気遣いをしてる? くそ。何を考えてるか分からん。
 だが、どの意味にしろ、面倒くさい。

「っ!」

 強引に一松さんの腕を引っ張り、ポケットから手を出させて、無理やりに手をつなぐ。

 ぎゅっと手を握る。ふりほどいてはこない。
 一松さんの手は、ずっとポケットに入ってただけあって、ぬっくい。
 気を悪くしてないかと、恐る恐る一松さんを見ると、真っ赤。
 ホッとする。嫌ではないみたい。

 ……だから、逆だろう!!
 普通は男子が、照れる女子の手を握るものであって!!

 そして一松さんは手をつないでも無言。話題を振ってくるでもない。

 一度は壁○ンっぽいことをされたはずなんだけど、あれは私の幻覚だったのだろうか……。

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