第2章 二ヶ月目の戦い
「ありがとうございました。お疲れ様でーす」
バイト先の事務所を出ると、外はもう暗くなっていた。
お給料をふところにしまい、歩き出すと、ほどなく誰かいることに気づく。
「一松さん」
「ん」
いつもの紫の松パーカーにサンダル、猫背。
「お待たせしました。じゃ、帰りましょうか」
「ん」
私たちは歩き出す。
松野兄弟の(かろうじて)公認により、つきあい始めて幾日か経った。
私たちはもう偽の兄妹ではない。恋人同士だ!
といっても、健全な関係ですからね!?
だって家で二人きりになろうものなら、五人の悪魔が完璧な連携で阻止してくる。
ホテル? 無職&フリーターには出費だし、そもそも一松さんが誘ってこない。
じゃあ何をしているか。
私がバイトを終わった後、一松さんが迎えに来て一緒に帰る。
休日は猫スポットを巡ったり、川辺を散歩したり。
って、児童の恋愛かっ!!
今どき少女漫画でも、もう少し不健全要素が入るわっ!!
よし、せめて手をつなごう♪
私はさりげなく手を――奴は両手をポケットに突っ込んだまま、無反応。
負けない。
「一松さん」
笑いかけ、意味ありげに手を差し出す。
「…………」
だから! 手をつなぐくらいいいでしょうが!! 何その、嫌そうな顔!!
でも通りの店舗照明に照らされる一松さんの顔を見ると、ちょっと赤い。
普通に照れてる? それとも『女と手をつなぐなど軟弱な!』と古風な考え?
あるいは『自分のようなクズと手をつないで歩くと、松奈が恥をかくのでは』と、また斜め45度の気遣いをしてる? くそ。何を考えてるか分からん。
だが、どの意味にしろ、面倒くさい。
「っ!」
強引に一松さんの腕を引っ張り、ポケットから手を出させて、無理やりに手をつなぐ。
ぎゅっと手を握る。ふりほどいてはこない。
一松さんの手は、ずっとポケットに入ってただけあって、ぬっくい。
気を悪くしてないかと、恐る恐る一松さんを見ると、真っ赤。
ホッとする。嫌ではないみたい。
……だから、逆だろう!!
普通は男子が、照れる女子の手を握るものであって!!
そして一松さんは手をつないでも無言。話題を振ってくるでもない。
一度は壁○ンっぽいことをされたはずなんだけど、あれは私の幻覚だったのだろうか……。