• テキストサイズ

【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



「びっくりしたけど、とにかく祝福するよ、松奈ちゃん。
 でも同じ顔の六人の中で一松兄さんを選ぶなんて物好きだよねー!」

「あいつ、別れるときに苦労すると思うから、刺されそうになったら言ってね」

「暴力をふるわれたらいつでも相談するんだぞ、妹よ!」
 祝福されてる気がしねえ!!

「それじゃあ、一松」

 一番常識的なチョロ松お兄さんが、手をポキポキ鳴らしている。
 他の兄弟も、顔は笑っているのに目が全然笑っていない。
 五人の悪魔は、死んだ魚の目をしてうずくまる一松さんを囲み、

『ちょっと話をしようか』

 やはり置物化している一松さん。
 兄弟にえり首引っ張られ、ズルズル引きずられても抵抗しない。
 出て行く間際、トド松さんが振り返り、素敵な笑顔で片目をつぶる。
「それじゃ僕たち、今日は外で食べるから」
「い、いってらっしゃ~い」

 そして哀れな四男は家の外に連れて行かれた。
 私は、素敵な笑顔でそれを見送るのだった。

 その後、近所で凄まじいリンチがあったと、警察が駆けつける事態になった。
 だが犯人は捕まらず、被害者の行方も不明のまま。
 翌朝、ズタボロになった一松さんが庭に放置されていた。

 縁側の庭には花が咲いている。 
「すごいお兄さんたちですね」
 救急箱を置き、傷口に赤チンつけながら言う。ボロボロの一松さんは、

「今回は大人しい方だよ。他の奴だと、もっとすごいときもあるし」

 男兄弟の見えざるヒエラルキー!! 

 でも一松さんの空気はやわらかい。
 青い空から差し込む日差しが、幸せな私たちを照らす。
 仲良しの猫が上がってきて、一松さんに身体をこすりつけた。
 一松さんはそれを撫でながら、

「次の休み、いつ? 猫がいっぱいいる場所、教えるから」

 照れたように笑う。私は嬉しくなって、

「ええ、一緒に行きましょう!」

 私を見る一松さんの頬に、朱がさす。
 多分私も、同じように赤いんだろう。

『ハッスルハッスル!』とどこかで十四松さんの元気な声。

 家族っていいなあ。ケンカもするけど、皆で遊んだり、助け合ったり。

 ……私にも、そんな家族が待ってるんだろうか。
 今頃元の世界で、私を必死に探しているんだろうか。

/ 422ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp