第1章 最初の一ヶ月
「びっくりしたけど、とにかく祝福するよ、松奈ちゃん。
でも同じ顔の六人の中で一松兄さんを選ぶなんて物好きだよねー!」
「あいつ、別れるときに苦労すると思うから、刺されそうになったら言ってね」
「暴力をふるわれたらいつでも相談するんだぞ、妹よ!」
祝福されてる気がしねえ!!
「それじゃあ、一松」
一番常識的なチョロ松お兄さんが、手をポキポキ鳴らしている。
他の兄弟も、顔は笑っているのに目が全然笑っていない。
五人の悪魔は、死んだ魚の目をしてうずくまる一松さんを囲み、
『ちょっと話をしようか』
やはり置物化している一松さん。
兄弟にえり首引っ張られ、ズルズル引きずられても抵抗しない。
出て行く間際、トド松さんが振り返り、素敵な笑顔で片目をつぶる。
「それじゃ僕たち、今日は外で食べるから」
「い、いってらっしゃ~い」
そして哀れな四男は家の外に連れて行かれた。
私は、素敵な笑顔でそれを見送るのだった。
その後、近所で凄まじいリンチがあったと、警察が駆けつける事態になった。
だが犯人は捕まらず、被害者の行方も不明のまま。
翌朝、ズタボロになった一松さんが庭に放置されていた。
縁側の庭には花が咲いている。
「すごいお兄さんたちですね」
救急箱を置き、傷口に赤チンつけながら言う。ボロボロの一松さんは、
「今回は大人しい方だよ。他の奴だと、もっとすごいときもあるし」
男兄弟の見えざるヒエラルキー!!
でも一松さんの空気はやわらかい。
青い空から差し込む日差しが、幸せな私たちを照らす。
仲良しの猫が上がってきて、一松さんに身体をこすりつけた。
一松さんはそれを撫でながら、
「次の休み、いつ? 猫がいっぱいいる場所、教えるから」
照れたように笑う。私は嬉しくなって、
「ええ、一緒に行きましょう!」
私を見る一松さんの頬に、朱がさす。
多分私も、同じように赤いんだろう。
『ハッスルハッスル!』とどこかで十四松さんの元気な声。
家族っていいなあ。ケンカもするけど、皆で遊んだり、助け合ったり。
……私にも、そんな家族が待ってるんだろうか。
今頃元の世界で、私を必死に探しているんだろうか。