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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



 私だって、一松さんのどこを好きになった、と説明を求められても困る。
 誰だって人を好きになるのに理由なんかない。
 後から、それらしい説明をつけ足しているだけだ。

 しかし一松さんは、堰(せき)を切ったように話し出した。

「別に、居候だからって、無理に演技する必要ないから!
 あの晩のアレは勢いに流されただけで、実は何とも思っていないんでしょ!?
 こっちは無職で! 兄弟の中で一番クズで! 一緒に歩いて恥ずかしいし!!
 俺みたいな男に抱かれて、俺に恋人面してつきまとわれても困る! 気味が悪いと思ってるだろう!? こんな奴、重いからさっさと出て行きたいと思って――……んっ!?」

 キスをした。私の方から。

 だって途中で止めないと、延々とうっとうしい事を口走ってそうだし。

 つまり、あの翌朝の絶望的な表情や、その後の素っ気ない態度は、思考がマイナスに振り切れていたからのようだ。

 自分には、誰かに好きになってもらえる要素がない。

 だから松奈はこんな男と寝て、きっと後悔している。自分を嫌っていると。

 そんなことないんだけどなあ。

「ん……」
「…………」

 軽いキスのつもりが、気がつけば互いに舌を絡めている。
 ……反応するのはちょっとご自重いただきたいんですが。家の中だし!
 空気を変えるため、顔をはなして一松さんの両脇に手をつく。
 怯えたような、でも何かを期待するような気配。
 だから、だから逆だろうっ!! 別の意味で泣きそうなんですけどっ!!

「自分だけ話していてズルいですよね。
 一松さんは私のことをどう思ってるんです?」

「どうって……」

「私は一松さんが好きです。理由なんて知りませんよ」

「……っ!!」

「一松さんはその、す、好き、なんですか? わわわ私のこと。それともどうでもいい?」

 上から発言だが、内心は心臓がばくばくして破裂しそう。
 もう周囲の音なんて何も聞こえない。
 何でこんなことをしたんだろうという激しい後悔。
 本心を知るくらいなら、二ヶ月、他人のままでいた方が、はるかに――。



「…………す、き……」



 本当に小さくだけど、それだけが聞こえた。

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