第1章 最初の一ヶ月
私だって、一松さんのどこを好きになった、と説明を求められても困る。
誰だって人を好きになるのに理由なんかない。
後から、それらしい説明をつけ足しているだけだ。
しかし一松さんは、堰(せき)を切ったように話し出した。
「別に、居候だからって、無理に演技する必要ないから!
あの晩のアレは勢いに流されただけで、実は何とも思っていないんでしょ!?
こっちは無職で! 兄弟の中で一番クズで! 一緒に歩いて恥ずかしいし!!
俺みたいな男に抱かれて、俺に恋人面してつきまとわれても困る! 気味が悪いと思ってるだろう!? こんな奴、重いからさっさと出て行きたいと思って――……んっ!?」
キスをした。私の方から。
だって途中で止めないと、延々とうっとうしい事を口走ってそうだし。
つまり、あの翌朝の絶望的な表情や、その後の素っ気ない態度は、思考がマイナスに振り切れていたからのようだ。
自分には、誰かに好きになってもらえる要素がない。
だから松奈はこんな男と寝て、きっと後悔している。自分を嫌っていると。
そんなことないんだけどなあ。
「ん……」
「…………」
軽いキスのつもりが、気がつけば互いに舌を絡めている。
……反応するのはちょっとご自重いただきたいんですが。家の中だし!
空気を変えるため、顔をはなして一松さんの両脇に手をつく。
怯えたような、でも何かを期待するような気配。
だから、だから逆だろうっ!! 別の意味で泣きそうなんですけどっ!!
「自分だけ話していてズルいですよね。
一松さんは私のことをどう思ってるんです?」
「どうって……」
「私は一松さんが好きです。理由なんて知りませんよ」
「……っ!!」
「一松さんはその、す、好き、なんですか? わわわ私のこと。それともどうでもいい?」
上から発言だが、内心は心臓がばくばくして破裂しそう。
もう周囲の音なんて何も聞こえない。
何でこんなことをしたんだろうという激しい後悔。
本心を知るくらいなら、二ヶ月、他人のままでいた方が、はるかに――。
「…………す、き……」
本当に小さくだけど、それだけが聞こえた。