第1章 最初の一ヶ月
「抵抗できない女がいて、だから×っちゃったって流れ?
私のことは好きでも何でもなく、単なる気分だったんですか?」
「そ、そんなことは……」
「一松さん!」
うわ、動かないで下さいよ。外に出ようとするの、止め――。
「わっ!!」
何だこの構図。
狭い押し入れの中で、私は一松さんに覆い被さるような格好になる。
だから……だから逆だろう!! この配役っ!!
遠くで十四松さんが素振りをする、威勢の良いかけ声が聞こえる。
「ずっとかまっておいて、目的を達成したら捨てるってやつですか?
ならそう言って下さい。あきらめますから。でも皆の前で避けるのは止めて!」
泣きそうになる。
「…………」
ずいぶんと沈黙があった。
いやさっさと返答を下さいよ。
この押し倒し姿勢を長時間続けるの、結構キツそうなんだけど!
「……ンだよ」
「は?」
「さっきから黙って聞いてりゃ、何、勝手なこと言ってんの」
暗い中で、一松さんがいつもの皮肉げな表情を浮かべているのが分かる。
「まるで俺がヤリ捨てしたみたいな言い方してさあ!!
自分から何も話さないで、やっと何か言ったかと思ったら俺が遊んだみたいに責めてくるし!! 自分こそ、本心を何も話さないくせに勝手だよね!!」
うわ逆ギレされた。何、この人。
「わっ!!」
いきなり抱き寄せられ、身体が密着する。
そこから伝わる鼓動は、あの夜のときみたいに早かった。
一松さんの身体が熱い。ちょっとだけ汗かいてる?
「……おまえこそ、いいの?」
「何が」
「さっきの言い方だと、あんまり俺のこと嫌ってないみたいだけど」
え。あなたが私を嫌っていたのでは?
もしかして私が嫌ってると思って避けてた?
「俺、無職だし、お金ないし、暗いし、一番クズだし」
「気にしませんけど」
「気にしろよ! いや、今気にならなくても絶対に気になる!!
無職だから責任なんか取れないし、町を一緒に歩いていて恥ずかしいだろ!?
格好が最悪でパッとしなくて、暗そうで、いかにもニートで!!」
マイナス思考だなあ。そんなで疲れないのかなあ。
「大丈夫ですよ、皆、そんなに人のことは見てませんから」
「……否定」
否定してほしいなら、少しは改善努力をして下さいな。