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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



「抵抗できない女がいて、だから×っちゃったって流れ?
 私のことは好きでも何でもなく、単なる気分だったんですか?」
「そ、そんなことは……」
「一松さん!」
 うわ、動かないで下さいよ。外に出ようとするの、止め――。
「わっ!!」

 何だこの構図。

 狭い押し入れの中で、私は一松さんに覆い被さるような格好になる。
 だから……だから逆だろう!! この配役っ!!

 遠くで十四松さんが素振りをする、威勢の良いかけ声が聞こえる。

「ずっとかまっておいて、目的を達成したら捨てるってやつですか?
 ならそう言って下さい。あきらめますから。でも皆の前で避けるのは止めて!」

 泣きそうになる。

「…………」

 ずいぶんと沈黙があった。
 いやさっさと返答を下さいよ。

 この押し倒し姿勢を長時間続けるの、結構キツそうなんだけど!

「……ンだよ」

「は?」

「さっきから黙って聞いてりゃ、何、勝手なこと言ってんの」

 暗い中で、一松さんがいつもの皮肉げな表情を浮かべているのが分かる。

「まるで俺がヤリ捨てしたみたいな言い方してさあ!!
 自分から何も話さないで、やっと何か言ったかと思ったら俺が遊んだみたいに責めてくるし!! 自分こそ、本心を何も話さないくせに勝手だよね!!」

 うわ逆ギレされた。何、この人。

「わっ!!」

 いきなり抱き寄せられ、身体が密着する。
 そこから伝わる鼓動は、あの夜のときみたいに早かった。
 一松さんの身体が熱い。ちょっとだけ汗かいてる?

「……おまえこそ、いいの?」
「何が」
「さっきの言い方だと、あんまり俺のこと嫌ってないみたいだけど」
 え。あなたが私を嫌っていたのでは?
 もしかして私が嫌ってると思って避けてた?
「俺、無職だし、お金ないし、暗いし、一番クズだし」
「気にしませんけど」
「気にしろよ! いや、今気にならなくても絶対に気になる!!
 無職だから責任なんか取れないし、町を一緒に歩いていて恥ずかしいだろ!?
 格好が最悪でパッとしなくて、暗そうで、いかにもニートで!!」

 マイナス思考だなあ。そんなで疲れないのかなあ。

「大丈夫ですよ、皆、そんなに人のことは見てませんから」

「……否定」

 否定してほしいなら、少しは改善努力をして下さいな。

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