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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



 しかし何だっていきなり、こんなことを。

 まさか。十四松さんだけは私たちの関係に気づいて……?

 まさかね。十四松さんだし。う、うん。

 …………。

 そして数分経過。
 沈黙。すっごい気まずい沈黙。
 目が慣れてきたが、押し入れの下の段は狭い。頭ぶつかりそう!
「あ、あの――」
 言葉を発しかけたが、
「時間が経てば勝手に開けに来るし、待ってればいいよ」
 と、言って一松さんはすみっこで膝を抱えた。

 どうしよう。すごくうっとうしい。

「…………」
「…………」

 沈黙が続く。他の兄弟やお母様たちが帰ってくる気配はない。
 唯一残った十四松さんは家の外で素振りをしている。
 だが声を聞く限り、まだまだ序盤の百回目くらい。当分戻るまい。
 私たちは暗くて狭い空間で、沈黙していた。

「……。一松さん」
「話しかけないでくれる?」

 うわ、言葉にトゲを感じる。

「…………」
 そしてまた沈黙。いつまで続くんだろう。

 ……いつまでも? このままずっと?

 思う。このままでずーっといても、一松さんは多分動かない。

 そのうち十四松さんが素振りから戻ってくるか、誰かが帰って開けてくれて。
 その後は?

 私がこの松野家にいるのはあと二ヶ月。
 一松さんが私によそよそしかった二週間が、二ヶ月に延長されるだけ。

 今みたいに二人きりになる機会が、その間に訪れるんだろうか。
 本当に何とも思われてない。ウザい、重いと思われていたら?

 ……それならそれでいい。何とか吹っ切って見せる。

 このまま松野家を去る日まで、悶々として過ごすのは嫌だ。

 気持ちを聞きたい。
 なら、私の方から動かないと。
 
 私は一松さんに向き直る。
 私から何かを感じたのだろうか。一松さんがビクッとするのが見えた。

 やっぱり配役が逆なような気がするんだけど……。

「一松さん」
「な、何?」
 顔を近づけると、そっぽを向いて目をそらす一松さん。
 押し入れの戸からのかすかな光源では、表情は見えづらい。

「教えて下さい。この前のアレは遊びだったんですか?」

「――……っ!」

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