第1章 最初の一ヶ月
「松奈、一緒に帰ろう!」
「あ、ごめんなさい、ティッシュを全部配らないといけないんで」
「じゃあ、俺も手伝うー!!」
「え? いえ、いいですよ!!」
だが十四松さんは、段ボールからティッシュをわしづかみにし、道行く人に片っ端から、
「ティッシュ、お願いしまーす! お願いしゃーす! おなしゃーっす!!」
だんだん省略されてるが、一万回野郎の体力は尋常では無い。
身体が分裂しているかのような動きに、通行人もついティッシュを受け取っている。
恐ろしいくらいのフットワークにより、ティッシュはあっという間になくなってしまった。
「ありがとう、十四松お兄さん。じゃあお店に行きますので」
「わっしょい!!」
何だ、そのかけ声。
日給を受け取り、外に出た頃には夕方だ。
「ありがとうございました、十四松お兄さん。半分受け取って下さい」
ティッシュの半分は十四松さんが配ったようなもんだし。お金を出すと、
「え!? いいの!? ありがとーっ!!」
飛び上がらんばかりのはしゃぎよう。小学生みたい。
変に遠慮しない分、こっちも気を遣わなくていい。一緒にいて気が楽。
一松さんが可愛がってるのも分かるなあ。
……いかん。一松さんのことを考えたら落ち込んできた。
「松奈~?」
うわっ!! 十四松さんが真横からのぞきこんでいた!!
「か、帰りましょうか」
私たちは並んで、赤く染まった歩き出す。
「最近、一松兄さんと遊ばないの?」
いきなり、そのものズバリなことを聞かれてしまった。
「もう面倒見る必要がなくなった、と思ってるんじゃないですか?」
と笑う。
「楽しかったのに~」
と十四松さんはちょっと残念そう。
そう。一松さんが私の部屋に入り浸っていた頃、十四松さんもよく部屋に来た。
他のご兄弟がいないときは三人でよく遊んだものだ。
『このメンツで人生ゲームって色々シャレになってないような』
『人生ゲームじゃ無くて億万長者ゲーム。はい、東京進出ね』
『うーわーっ!! 税務署来ちゃったー!!』
『約束手形が、約束手形がたまっていく!! てかこれ昭和のボードゲームですよね? これをリアルタイムで遊んでたとか、頼むから無いと言って下さい!』
改めて疑惑が……じゃないじゃないっ。とにかく三人で楽しく遊んだ。