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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月


 あれから二週間。私が松野家に来て一ヶ月。
 一松さんは冷たい。

 二週間目で一松さんとアレな関係になった。
 だがその後の二週間は必要最低限の会話しかしていない。

 もう私の部屋にも来なくなった。
 二人きりになりそうなときは、自分からどこかに出かけてしまう。
 町で会っても知らないフリをする。
 明らかに避けられている。
 
 おそ松さんたちも気づいたようだけど『松奈の存在に慣れたんだよ』と、あまり深刻にとらえてないようだ。

 私の心に立ちこめる暗雲はハンパない。

「ティッシュどうぞー。駅前のパチンコ店でーす、新装オープンいたしましたー」
 
 家事を終えれば、町に出てティッシュ配りのアルバイトである。
 最近の二週間は午前中は家で家事をして、午後はティッシュ配りといった具合だ。
 お母様が頑としてお給料を受け取って下さらないのが、悩みの種だが。

「新装オープンです。どうぞー」
 配りながら、つい考え事である。
 一松さんは何をしてるのだろう。
 先日のあの件で、六人はお母様から雷を食らい、小遣いを大幅減額させられたという。
 お金もなしに、どこで時間をつぶしているのやら。
「ありがとうございます。お願いしまーす」
 他のご兄弟の話では、猫スポットを渡り歩いてるかも?という話だけど、私がンなもの知るわけがないし。
 そもそも、会ったところで何を話せばいいのか。

「お願いしまーすー! 駅前パチンコ店、新装オープンでーす!」
 やっぱ遊ばれたのかな。そういえば、あのときも『好き』とか『愛してる』とか一言も言われてないし。
 そもそも出会ってたった二週間。どんな感情が生まれるというのだ。
「ティッシュ……お願い、します……」
 ヤバい。どんどん気分が下がってくる。アルバイト中なのに、泣きそうだ。
 そうしたら名前を呼ばれた。

「松奈?」

 ……っ! 一松さん!?

「松奈! 松奈だ、松奈ーっ!!」

 同じ顔を見て、一瞬期待した私が馬鹿だった。
 六つ子の一人。十四松さんであった。
 今日は野球のユニフォームという、比較的安全な姿である。
「十四松お兄さん、草野球の帰りですか?」
「バッティングセンターに行ってきた! 素振り一万回やってきたよ!」

 ……ノーコメント。

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