第1章 最初の一ヶ月
財布を一松さんに取られ、路上に放置された彼らは、帰宅にかなり苦労したそうな。
私の方にも怒る気はない。このことがきっかけで、一松さんと……えー、仲良くなれたし。
ただし、その頃には一松さんもダウナー状態から復活していた。
一松さんには、許す気はなかったようだ。
なので私も仕方なく一松さんの指示に従い、全員の眼球にタバスコを垂らした。
これら些細なお仕置きをもって、この件は正式に終わったのである。
ちなみにその後、イヤミ社長は六つ子の追跡の末、捕らえられタバスコを……えー、とにかく半月入院したらしい。
で。一松さんと、六つ子たちのその後の関係は?
おそ松さんたちは私たちのことに気づいたかどうか。
否、である。
『何々、おまえら何か昨日と雰囲気が違うな~』
『おい一松! おまえまさか、俺たちより一足先に!?』
『良かったね、お似合いだよ、二人とも!』
といったやりとり(一部、妄想願望)は皆無だった。
今回の件は、私のときとは完全に違う。
誰一人、気づいてないらしい。
「あああー、昨日は楽しかったけど、金を使いすぎたな」
「一松ぅー、パチンコ行こうぜー」
「ああ」
六つ子はいつもと一切変わらず、いつもの無職の行動パターンを踏襲し、ろくでもない遊びに出かけていった。
皆の前で、一松さんが私に何かしてくることはなかった。
キスしたり、甘い言葉をかけてきたり、皆に『俺たちつきあってるから』宣言をしたり――何一つなかったです。
一松さんは私に無関心なそぶりのまま、出かけていってしまった。
「……こんなオチ、ありか……」
夕日の差す松野家でポツンと一人。
ちゃぶ台の上で履歴書を書きながら、私は呆然と呟いたのだった。
…………
…………
「いってくる」
今日も、玄関に立つ一松さんは、いつもの通りにだらしな……ゴホンゴホンっ!!
サンダル履きに、ややボサボサ頭、猫背、紫パーカーの格好だ。
家事の最中の私は、エプロンの紐を結び直しながら、
「お帰りは何時頃になりますか?」
「俺の勝手でしょ。メシ、いらないから」
ガラガラ、ぴしゃん。
目の前で引き戸が閉まる。
野郎、振り向きもしなかった。
「はあ」
私も肩を落とす。
あれから二週間。私が松野家に来て一ヶ月。
一松さんは冷たい。