第1章 最初の一ヶ月
窓の外から夜明けの光が差し込む。
「松奈……」
すがるように名を呼ばれ、私はキスをして応えた。
一松さんは少し微笑み、私の頭を撫でてくれた。
その顔を見たら、安心してしまって――。
「松奈?」
名前を呼ばれたけれど、私は深い眠りに落ちてしまった。
…………
それから何度か目が覚めたけど、いつも私は一松さんの腕枕の中にいて。
結局、チェックアウトギリギリまで寝てしまったのだった。
…………
そして昼頃に、松野家のある町に着いた。
「…………」
「……あの、一松さん」
「…………」
「…………」
松野家に続く道をゆっくりと歩いて行く。
だが一松さんとの会話が……会話がねえっ!!
何かあるでしょ? こう、何か!!
だが一松さんは再びダウナーに入ってしまった。
昨晩の比では無い、この世の終わりかという暗い顔で、何を話しかけても返事をしない。
何かまずかったかなあ。
『責任は取るからっ!』なんて言葉は期待してない。
けど仮にもあんなことがあった翌朝なんだから。
こう、甘い雰囲気になって手をつないだり、『好きだよ♪』とささやきかけてきたり。
……絶対に言わないな、うん。
せっかく恋人同士になったのに――。
恋人……ですよね?
隣をじっと見る。暗い顔を見上げるにつけ、不安がじわじわと強くなっていく。
青服で猫背。いつに増してもボサボサ髪。目の下にすごいクマ。
無職。ぼっち。どうにか脱○T。
あ、一松さんが私を見た。
私の視線に気づいたらしい。だが高速で視線を外される。
つきあって……るのか、これ?
結局、松野家に戻るまで、一松さんは一言も口をきかなかった。
その後、私たちはお母様から盛大に雷を落とされたが、それはまた別の話である。
また、先に帰宅していた五人の悪魔からは、
「あ、あのさあ、松奈。昨日はごめん! 本当にごめん!!
何か俺たち、ふざけすぎちゃって……」
記憶は多少残っていたらしい。
言い方にバリエーションはあれど、だいたい上記のようなことを言われ、五人から謝られた。