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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



 あっけに取られる私の前で紳士は丸薬をポイッと口に放り込んだ。


 ……五分後。


「我が娘よっ!! 浮気した覚えは一度もないし、明らかに顔が似ていない気もするが我が娘よ、やっと会えたっ!!」

「会いたかったです、お父さーん!!」

 私たちはヒシッと抱き合う。周囲の人々が異様な光景を見ているが、頓着している暇は無い。
 私は貴様ら庶民が見上げるハイソサイエティーなクラスに行くのだっ!!

「さあ、今日から一緒に暮らそう。もう店じまいだ、家に帰るぞ!!」
 よっしゃあ!! 寄生確定ーっ!!
「はい、ベンツですね! お父さん!!」
 だが。
「ん? ベンツ? うちにはそんなお金はないぞ」

 え?

「だが、娘に苦労はさせないからな。さあ母さんも兄さん達も待っているよ!」
 は? 兄さん達? こちらのお宅って、娘さんがお一人では?
 呆気にとられていると、後ろから声がした。
「あれ、父さん~。トト子ちゃんのお店の手伝いしてるの?」
「その子誰? お客さんをナンパとか、やるねー、父さん」
「ああ。弱井さんが風邪を引いたというのでな――コラ! おまえたちはまた昼間から飲んでっ!!」

 私の全身から一気に血の気が引く。
 振り向いた。

 へべれけ状態の同じ顔が六人。興味津々で私を見ていた。
 パチンコ屋や路上で見かけたのと同じ顔だった。


 …………

 …………

 その夜。

 私は呆然としていた。

 ここは松野家。和室の応接間。私はご両親の間に挟まれ、呆然としていた。

 だが私に劣らず、目の前に一列に座る彼らも呆然としていた。

 そして同じ顔が六人、同時に口を開き、

『妹……?』

 私の横に座るお父様は重々しくうなずき、

「そうだ。今日から一緒に暮らすことになる、新しい妹の松奈だ。仲良くしなさい」

 私は座布団の上で正座し、流れる汗を抑える。

「隠し子!? 父さん、浮気してたのっ!?」

 一番端の赤い松パーカーの青年が、ショックを受けた様子で口角泡を飛ばす。
 だがお父様は全く動じず、

「浮気した覚えはない! そして私の娘だ! 会った瞬間に分かった!!」

 さすがデカパン博士の薬の威力は絶大だ。
 どう聞いても理屈がおかしいのに、心の底から私を実の娘と信じ込んでいる。

 しかしおかしいのは、私もだ。

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