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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



 そこに決めた。超決めたっ! てか、お腹すいてきたし!! 今すぐそこの娘さんになろう!

「その弱井さんのお宅はどちらですか!?」
 身を乗り出す私に、ミスター出っ歯は若干引きながら、
「魚屋があるザンス……そこが――」
「ありがとうザンスーっ!!」
 古典的な土煙を上げながら、私は一目散に走り出した。

「え? ちょっとチミ! ミーは場所をまだ言ってな――」

 ミスター出っ歯が何か言ってる気がしたが、私はベンツを持つ裕福なご家庭のことで頭がいっぱいで、一切聞いていなかった。

 …………

「はあ、はあ……見つけました……」

 時刻は夕暮れになっていた。ようやく、件(くだん)の魚屋を見つけた。
 疲れた。すっごく疲れた。

「もう飲めないよ、兄さん~」
「だらしないぞ、もう一軒行くぞぉ~!!」
『おーっ!!』

 あまりに疲れすぎ、真横を全く同じ顔の六人が千鳥足で歩いて行くのが見えた気がしたが、幻覚に相違ない。

 私はポケットの中から小瓶を取り出し、薬を見る。
 これをこの店の店主夫婦に飲ませれば、三ヶ月間は安泰だ。
 私はこの悪夢を単なる夢として、元の世界に戻ることが出来る。
「いらっしゃいませ」
 店の奥から人が出てきた。
「今日はタイが安いですよ」
 いかにも恰幅(かっぷく)の良い、お腹の出た紳士だ。この人こそ店主に違いない!
 まずはこの人に薬を飲んでいただかねば!!
 お父様は私にニコッと微笑み、
「何かお探しですか? お客様」
「あ、あの、すみません」
「はい?」

 …………。ここからどうしよう。そういえば、どうやって飲ませるかは全く考えていなかった。

 私は人見知りらしい。一気に冷や汗が出てくる。
「どうかしましたか? あ、いらっしゃいませー」
 まずい。店主が別の客に気を移し始めた。
 ああもう!! 差し入れに混ぜるとか水に混ぜるとか、用意しておけば……いや私、無一文だし。

「私、D.P.LABOの者で、新薬のテストをしています。
 これは肥満に効く錠剤で、デカパン博士がぜひ飲んでもらいたいと――」

 ヤケになって口走ってしまった。
 いやいやいや。不自然すぎだろう。無理がありすぎだろう。
 失敗だコレ。別の寄生先を探そう!

「おお、デカパン博士の! これはご苦労様です!!」

 マジか!?

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