第1章 最初の一ヶ月
一松さんはどんどん落ち込み出した。
これで鬱(うつ)モードに入られたら、明日からどうつきあえばいいんだ。
「嫌いになったりしないです。一松さんも、おそ松お兄さんたちのことも」
「……おまえ、底なしの馬鹿だな」
こら、気分を上げようとしてるのに、なぜひねくれた応えを返してくる。
一松さんの鬱(うつ)が移りそうだな。鬱だけに。
「……ぷっ!」
自分のセンスの秀逸さに、つい噴き出してしまう。
「変な奴だな。本当に」
でも一松さんはやっと硬い表情を和らげた。それで私も安心する。
何だか急に眠くなってきたなあ。
「いえいえ。じゃ、先に寝てますね。ちゃんとシャワーを浴びるんですよ?」
「あ、ああ」
大きなベッドに横になり、伸びをする。
一松さんはというと冷蔵庫を開け、またお酒を取り出しているところだった。
良かった~。もうこれで安心だ。
五人を相手にしていたときは、どうしようかと思ったけど。
私は大あくびをした。
…………
うとうとする。誰かがそばにいて何度も頬を撫でている気もする。
ちょっとだけ、いい匂いがする。
くすぐったいなあ。私が笑うと、誰かも笑う気配。
安心する。ドキドキしたけど、やっぱり、こっちの展開で良かった。
「…………か?」
誰かに何かを聞かれた気がした。
「ううん」
と夢うつつに首を振る。
……ホントは、少し、残念……だった、かな……。
「……え? ざ、残念だったのか? ほ、本当にっ?」
眠気で幻聴が聞こえた気がした。気のせい、かな。
うん。少し……だけ……ね……。
他の人はヤだけど、一松……さんだったら……そんなに、嫌、じゃ、な……。
疲れもあって私はそれきり寝てしまった。
…………
ヤバい。これはこれで予想外だった。
「ほら、起きろよ」
私に覆い被さる男は、私の頬を軽く叩き、眠りの園から引きずり出す。
「いえ、眠いんですが……」
「なら寝たままでいいのか?」
私の襟元のボタンを外しながら言う。
えー、お初でそういう特殊なのはちょっと……。
「……え?」
そこでようやく意識が覚醒する。
え? 何? さっきまで部屋の隅で置物と化していた人が、キャラが変わったかのごとく、邪悪な笑顔で私に覆い被さっている。
え? ええええ?