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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



 一松さんはどんどん落ち込み出した。
 これで鬱(うつ)モードに入られたら、明日からどうつきあえばいいんだ。
「嫌いになったりしないです。一松さんも、おそ松お兄さんたちのことも」

「……おまえ、底なしの馬鹿だな」

 こら、気分を上げようとしてるのに、なぜひねくれた応えを返してくる。
 一松さんの鬱(うつ)が移りそうだな。鬱だけに。
「……ぷっ!」

 自分のセンスの秀逸さに、つい噴き出してしまう。

「変な奴だな。本当に」
 でも一松さんはやっと硬い表情を和らげた。それで私も安心する。
 何だか急に眠くなってきたなあ。
「いえいえ。じゃ、先に寝てますね。ちゃんとシャワーを浴びるんですよ?」
「あ、ああ」

 大きなベッドに横になり、伸びをする。
 一松さんはというと冷蔵庫を開け、またお酒を取り出しているところだった。

 良かった~。もうこれで安心だ。
 五人を相手にしていたときは、どうしようかと思ったけど。
 私は大あくびをした。

 …………

 うとうとする。誰かがそばにいて何度も頬を撫でている気もする。
 ちょっとだけ、いい匂いがする。
 くすぐったいなあ。私が笑うと、誰かも笑う気配。

 安心する。ドキドキしたけど、やっぱり、こっちの展開で良かった。

「…………か?」

 誰かに何かを聞かれた気がした。

「ううん」

 と夢うつつに首を振る。
 ……ホントは、少し、残念……だった、かな……。

「……え? ざ、残念だったのか? ほ、本当にっ?」

 眠気で幻聴が聞こえた気がした。気のせい、かな。

 うん。少し……だけ……ね……。

 他の人はヤだけど、一松……さんだったら……そんなに、嫌、じゃ、な……。

 疲れもあって私はそれきり寝てしまった。

 …………

 ヤバい。これはこれで予想外だった。

「ほら、起きろよ」

 私に覆い被さる男は、私の頬を軽く叩き、眠りの園から引きずり出す。
 
「いえ、眠いんですが……」

「なら寝たままでいいのか?」

 私の襟元のボタンを外しながら言う。
 えー、お初でそういう特殊なのはちょっと……。

「……え?」

 そこでようやく意識が覚醒する。

 え? 何? さっきまで部屋の隅で置物と化していた人が、キャラが変わったかのごとく、邪悪な笑顔で私に覆い被さっている。

 え? ええええ?
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