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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



 金を払って私に遊んでほしいんじゃなかったの!?
 詐欺だ! 金返せ!……じゃない、返すわ、この一万円っ!!
 いえ、財布にちゃんと入れ直しましたけど!!

 一松さんが黙して語らないので、何でこうなったか、私が推測するしかない。
 彼の態度と表情から察するに、どうも夜風に吹かれているうちに、だんだん怒りと酔いが醒(さ)めてきたらしい。
 
 最初は怒りで、鬼畜モードだったが徐々に興奮が冷めた。

 そしてテンションはアップからダウンへ。

 冷静に現状を把握するにつれ、『やっべえ! 酒の勢いで行動しちゃったけど、この後どうしよう!』と。


 ……それ、どうなんだろう、男として。


 うーむ。私を連れ去った相手は少女漫画の俺様イケメンでもなければ、朝チュンまでリード&フォローしてくれる、乙女ゲーの完璧王子でもない。

 他の兄弟と同じ。ニー○で。D○で。猫しか友達がいなくて。
 さらに加えて『一松さん』なのだ。


「ねえ一松さん」
「…………」

 だから捨てられた子猫みたいな目で見上げないで下さい!

 とまあ、当初は家に帰れそうな感じだった。
 でも午前様になってたこともあって、タクシーが一向に見つからなかったのだ。

 深夜ともなると、変な人もうろついてるし、私も寒がる。
 一松さんは意を決して、私を連れてホテルに入った。
 といっても、受付の段階で相当キョドっていたが。

 けど最近のホテルの受付は無人化しているので、機械操作に四苦八苦しつつも(というかほとんど私がやった)、部屋を取れた。

 一松さんのライフはそのあたりで尽きたらしい。

 薄々気づいてはいたが、彼が普段から人を遠ざけるのは単なるポーズ。
 本当はすごく寂しがり屋かつ、自分に自信がない人らしい。
 そして一松さんは一人で勝手に落ち込み、ホテルの置物と化したのだった。

「一松さん。シャワーに入りません?」

 いや、ビクッとしないで下さいよ。本当ならこれ、配役が逆でしょ!?

 何であなたの方が被害者みたいに怯えてんですか!!

 落ち着くまでそっとしておこうと、彼のそばを離れた。

 うーん、でも目がさえちゃったかなあ。

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