第1章 最初の一ヶ月
金を払って私に遊んでほしいんじゃなかったの!?
詐欺だ! 金返せ!……じゃない、返すわ、この一万円っ!!
いえ、財布にちゃんと入れ直しましたけど!!
一松さんが黙して語らないので、何でこうなったか、私が推測するしかない。
彼の態度と表情から察するに、どうも夜風に吹かれているうちに、だんだん怒りと酔いが醒(さ)めてきたらしい。
最初は怒りで、鬼畜モードだったが徐々に興奮が冷めた。
そしてテンションはアップからダウンへ。
冷静に現状を把握するにつれ、『やっべえ! 酒の勢いで行動しちゃったけど、この後どうしよう!』と。
……それ、どうなんだろう、男として。
うーむ。私を連れ去った相手は少女漫画の俺様イケメンでもなければ、朝チュンまでリード&フォローしてくれる、乙女ゲーの完璧王子でもない。
他の兄弟と同じ。ニー○で。D○で。猫しか友達がいなくて。
さらに加えて『一松さん』なのだ。
「ねえ一松さん」
「…………」
だから捨てられた子猫みたいな目で見上げないで下さい!
とまあ、当初は家に帰れそうな感じだった。
でも午前様になってたこともあって、タクシーが一向に見つからなかったのだ。
深夜ともなると、変な人もうろついてるし、私も寒がる。
一松さんは意を決して、私を連れてホテルに入った。
といっても、受付の段階で相当キョドっていたが。
けど最近のホテルの受付は無人化しているので、機械操作に四苦八苦しつつも(というかほとんど私がやった)、部屋を取れた。
一松さんのライフはそのあたりで尽きたらしい。
薄々気づいてはいたが、彼が普段から人を遠ざけるのは単なるポーズ。
本当はすごく寂しがり屋かつ、自分に自信がない人らしい。
そして一松さんは一人で勝手に落ち込み、ホテルの置物と化したのだった。
「一松さん。シャワーに入りません?」
いや、ビクッとしないで下さいよ。本当ならこれ、配役が逆でしょ!?
何であなたの方が被害者みたいに怯えてんですか!!
落ち着くまでそっとしておこうと、彼のそばを離れた。
うーん、でも目がさえちゃったかなあ。