第1章 最初の一ヶ月
「なら、俺とも遊んでくれるよな? 金を払えば」
と、私の襟元から中にねじこむ。指が私の鎖骨に触れてビクッとなる。
「あの、本当に……ごめなさ……」
「行くぞ」
強引に手を引っ張られた。
今さらながら、彼も酔っているのだと思い出す。
そして一松さんは猛烈に激怒している。
誰にだろう。私にだけでは無い。自分自身に……?
そして私は、深夜の街を引きずられて行った。
…………
…………
とまあ、あんな連れ去られ方をして。
さて私はどうなったでしょう。
つつがなくいただかれ、ハッピー(バッド?)エンドのロゴが出たでしょうか?
そうなると思いました? そういうのが良かったって?
は……はははは……は……は……。
ど う し て あ あ な っ た 。
…………
…………
「うーん」
アロマの香りに湯気。そして炭酸のお風呂。
初めて見る、恋人向けホテルのお風呂、いやバスルームは、やたらキラキラしててくつろぎにくかった。本来は二人で入るだろうバスルームに一人。
落ち着かない。バブルに身体をまかせ、私はため息をついた。
くつろげないままシャワーから出、髪を乾かす。
そして私は自分の服を着て、部屋のすみの物体に声をかけた。
「あ、あのお、一松さん。シャワーが終わりましたんでどうぞ」
「…………」
ちょっとぼさぼさの髪、スーツっぽい青服。
彼は膝を抱えている。広い部屋のすみっこにいる。
「あ、あの。ねえ?」
「…………」
何度も呼びかけ、やっとこちらを見上げてきた視線は、路地裏の子猫のよう。
今この場で、消えられるなら消えたいなあ、みたいな。
…………。
何でさっきのシーンから、ここまで豹変したかって?
何が起こったか。何も起こっていない。
むしろ一松さんが通常モードに戻ったというべきだろう。
夜の街を一緒に歩いているうちに、一松さんのテンションが急下降していったのだ。
それこそ、途中で立ち止まり『タクシーを拾って帰る?』と言い出し、私をポカンとさせる程度に。
ええええー? と、私は驚きましたよ。
さっきの壁ド○は何だったんだ!!
金を払って私に遊んでほしいんじゃなかったの!?