第1章 最初の一ヶ月
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終電も終わった深夜の繁華街。
私と一松さんは二人きりで歩いていた。
「あの、本当にいいんですか? 皆を路地裏に捨てちゃって」
急性何とか中毒じゃないのかなあ。スリや低体温も心配。一松さんは低い声で、
「寝てるだけだ。盗もうにも金を持ってねえし、あれで頑丈な奴らだ。例え風邪を引いても、おまえにしたことを考えれば自業自得だ。
朝には何も覚えてねえ。それぞれ勝手に帰るだろう」
一松さんは、一旦離席し、とっておきに強い酒をカウンターから持ってきたらしい。
泥酔状態だった五人はそれで完璧につぶれた。
会計の金額も半端なかったが、私が『オプション代』を全部出して、どうにか精算。
そして二人で苦労して、五人の飲んだくれを外の路地裏に捨て、出てきたのである。
言葉少なく、人の気配の絶えた通りを歩いて行くと、
「家、出て行く?」
「え?」
「あいつらのあんな姿を見て、一緒に暮らすのが嫌になっただろ?」
「いえ、出て行きません。出て行けませんよ。
私も警戒心がなかったし、きっぱり拒否しなかったし」
そして一呼吸置き、
「一松さんに最後まで、ちゃんと『助けてくれ』って、言わなかった」
「当たり前だ、馬鹿野郎っ!!」
聞いたことのない怒鳴り声だった。
「わっ!!」
手首を引っ張られ、横道に引き込まれたかと思うと、コンクリートの壁に突き飛ばされた。
「い、痛……」
背中をぶつけ、乱暴な扱いにうめく。
目を開けると一松さんの顔が目の前にある。
「一松さん……!?」
「なあ松奈。実はおまえって、×××だったの?」
今度は妄想ではなく、明確に女性への侮辱語を言われる。
「お金払えばどんなサービスでもしてくれる系だった?
あの後ホテルに連れ込まれて、あいつらが金をはらったら、全員に×らせてた?」
「そんなわけがない!……でしょう」
殺意のこもった視線に、声が尻すぼみになる。
「金を払えば、何でもするの?」
「だから、違……」
壁に肘をついて私を見下ろし、こっちに覆い被るよう。
噂に聞く壁何とかじゃない。完全に恐喝の態勢だ!!
「一松さ……」
一松さんが懐から何かを出す。万札だ。私の前でちらつかせ、
「なら、俺とも遊んでくれるよな? 金を払えば」