• テキストサイズ

【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月


 …………

 …………

 終電も終わった深夜の繁華街。
 私と一松さんは二人きりで歩いていた。

「あの、本当にいいんですか? 皆を路地裏に捨てちゃって」
 急性何とか中毒じゃないのかなあ。スリや低体温も心配。一松さんは低い声で、

「寝てるだけだ。盗もうにも金を持ってねえし、あれで頑丈な奴らだ。例え風邪を引いても、おまえにしたことを考えれば自業自得だ。
朝には何も覚えてねえ。それぞれ勝手に帰るだろう」

 一松さんは、一旦離席し、とっておきに強い酒をカウンターから持ってきたらしい。
 泥酔状態だった五人はそれで完璧につぶれた。
 会計の金額も半端なかったが、私が『オプション代』を全部出して、どうにか精算。
 そして二人で苦労して、五人の飲んだくれを外の路地裏に捨て、出てきたのである。
 言葉少なく、人の気配の絶えた通りを歩いて行くと、

「家、出て行く?」

「え?」

「あいつらのあんな姿を見て、一緒に暮らすのが嫌になっただろ?」

「いえ、出て行きません。出て行けませんよ。
 私も警戒心がなかったし、きっぱり拒否しなかったし」

 そして一呼吸置き、

「一松さんに最後まで、ちゃんと『助けてくれ』って、言わなかった」

「当たり前だ、馬鹿野郎っ!!」
 聞いたことのない怒鳴り声だった。

「わっ!!」
 手首を引っ張られ、横道に引き込まれたかと思うと、コンクリートの壁に突き飛ばされた。
「い、痛……」
 背中をぶつけ、乱暴な扱いにうめく。
 目を開けると一松さんの顔が目の前にある。

「一松さん……!?」

「なあ松奈。実はおまえって、×××だったの?」

 今度は妄想ではなく、明確に女性への侮辱語を言われる。

「お金払えばどんなサービスでもしてくれる系だった?
 あの後ホテルに連れ込まれて、あいつらが金をはらったら、全員に×らせてた?」

「そんなわけがない!……でしょう」

 殺意のこもった視線に、声が尻すぼみになる。

「金を払えば、何でもするの?」
「だから、違……」

 壁に肘をついて私を見下ろし、こっちに覆い被るよう。
 噂に聞く壁何とかじゃない。完全に恐喝の態勢だ!!

「一松さ……」

 一松さんが懐から何かを出す。万札だ。私の前でちらつかせ、

「なら、俺とも遊んでくれるよな? 金を払えば」

/ 422ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp