第1章 最初の一ヶ月
「はああ?」
声を出したのは私ではなく、またも一松さん。
「おい、いい加減にしろよ」
彼は私の前に立ち、トド松さんがノリノリで出してきた千円を突っ返そうとしたが、
「おいおい、一松~。何? やけにこの子のことを庇うじゃないか」
おそ松さんが邪悪な笑みをする。
「あれ~、一松、好きなの? もしかして~」
小学生かっ!!
「べ、別に……!」
瞬時に一松さんが変わる。こっちも小学生メンタルか。
「こんな居候、別に何とも思ってねえよ……。
おい、うっとうしいから、いちいち背中に隠れてんじゃねえよ!!」
豹変。
だが、他ならぬ一松さんに睨まれると何も言えない。
でも私がおずおずと背中から出ようとすると、
「嫌ならちゃんと断れ。あいつらは悪ノリがひどい」
ボソッと一松さんが早口で言うのが聞こえた。
けど五人は楽しそうだった。
「はい、改めて千円ね。じゃあ行こうよ! その千円で何か楽しいことをしよう!」
「まずどこかで食べて、カラオケに行って……」
「よーし、行くぞー!!」
悪ノリという感じはしない。行き先のチョイスも危ない感じじゃ無い。
皆の顔は、全員で遊びに行く~という感じだ。
お金を払うのも冗談の延長みたいだ。
一松さんをチラッと見る。
気のせいか、何かを願っている顔に見えた。
私に、この五人の遊びの誘いをキッパリ断ってほしいと。
彼らを振り払って、自分を選んで欲しいと。
さっきと違い、ものすごく不安そうで……。
「はい、行きましょう!」
一松さんに背を向け、五人に笑顔でそう言った。
さっき冷たくされた腹いせだろうか。
自分の中の『何か』に戸惑っていたせいだろうか。
「やったあ!」
「行こう行こう!」
「フ。俺の誘いに答えたくて仕方がないようだな、カラ松ガー――」
「あ、俺、お酒飲める店も行きたい!」
「松奈ちゃんがいるし、お金もあるから、今日はちょっといいところに行こうか!」
『おー!!』
と私は五人に手を引かれ、笑顔でついて行った。
その後、一松さんは後についてきたものの、私たちの輪に一切加わることはなかった。
終始離れてついてきて、どの店に入ってもつまらなさそうに、すみっこにいた。
……で、最後に案内されたバーで、○T集団が暴走したのである。
はい、回想終了。