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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月


 ついでに全員出来上がっていて、誰が誰の発言かも分からない。
 かと思うとチョロ松さんが、
「松奈~。はい、千円あげるから俺にしなだれかかって」
「え? あ、はあ」
 半ば硬直したまま、真っ赤になってしなだれかかると、頭を撫でられ髪にキスされる。
「松奈ちゃん~。五千円あげるから、太もも撫でさせて☆」
 超爽やかにセクハラ発言をされた。
「え? それはダ――やっ……!」
 拒否する前に撫でられた。
 しかもかなり上の方までなで上げられ、半端ない悪寒を感じる。
「ああ、可愛い声! もう一回ね~」
「次は俺ね!」
「ちょっ! ダメだって……!」

 酔っている。彼らは完璧に酔っている。
 私に、というわけでなく手近にいる『女』に絡んでいるのだ。
 もはや完全にオッサンのセクハラ集団だ。
 涙目で、唯一正気を保っているメンバーに助けを求める。
 一松さんだ。一人、離れた場所でお酒を飲んでいる。
 が。

「…………」

 チラッと私を見た、一松さんの眼光は氷点下。
 果てしない高みから、汚物の吹き溜まりを見るような。蔑みの目。
 そこに私への怒りはあっても、私を助けようとする意志は見当たらない。

『この×××っ!!』

 伏せ字には女性への罵倒をお入れ下さい。
 彼の視線を表現するなら、そんなとこなのだ。
 果てしなく陰鬱で、侮蔑と憎悪と、その他あらゆる負の要素の混濁流。
 この場の狂気から私を解放してくれる人はいない。

 ……やべえ。一松さんが財布の額を確認しだした。

 酔ったセクハラ集団と哀れな子羊を置いて、自分だけ帰るつもりだ!!

「い、一松さんっ……!!」

 思わず叫ぶが、
「ダメだよ。他の男の名前を呼んじゃ~。ほら、キスさせて。いくらだっけ?」
 頬にキスされた。
「同じ顔だし、誰でも同じでしょ。お金をあげるから僕だけを見てよ~」
「あ、もう一回、触っていい? いいよね」

 うーわーあーっ!!

 何で私が無事に帰るハッピーエンドにならなかったのか。
 現在の狂気の展開になってしまったか。

 …………

 途中までは、あの河川敷の光景が現実だったのだ。

 昼間。皆が怒ってイヤミ社長を追い回し、私もちょっと怒られて。
 で、一松さんと帰ろうとして。
 だが一松さんと河川敷を出ようとしたとき、流れが変わった。

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