第1章 最初の一ヶ月
ついでに全員出来上がっていて、誰が誰の発言かも分からない。
かと思うとチョロ松さんが、
「松奈~。はい、千円あげるから俺にしなだれかかって」
「え? あ、はあ」
半ば硬直したまま、真っ赤になってしなだれかかると、頭を撫でられ髪にキスされる。
「松奈ちゃん~。五千円あげるから、太もも撫でさせて☆」
超爽やかにセクハラ発言をされた。
「え? それはダ――やっ……!」
拒否する前に撫でられた。
しかもかなり上の方までなで上げられ、半端ない悪寒を感じる。
「ああ、可愛い声! もう一回ね~」
「次は俺ね!」
「ちょっ! ダメだって……!」
酔っている。彼らは完璧に酔っている。
私に、というわけでなく手近にいる『女』に絡んでいるのだ。
もはや完全にオッサンのセクハラ集団だ。
涙目で、唯一正気を保っているメンバーに助けを求める。
一松さんだ。一人、離れた場所でお酒を飲んでいる。
が。
「…………」
チラッと私を見た、一松さんの眼光は氷点下。
果てしない高みから、汚物の吹き溜まりを見るような。蔑みの目。
そこに私への怒りはあっても、私を助けようとする意志は見当たらない。
『この×××っ!!』
伏せ字には女性への罵倒をお入れ下さい。
彼の視線を表現するなら、そんなとこなのだ。
果てしなく陰鬱で、侮蔑と憎悪と、その他あらゆる負の要素の混濁流。
この場の狂気から私を解放してくれる人はいない。
……やべえ。一松さんが財布の額を確認しだした。
酔ったセクハラ集団と哀れな子羊を置いて、自分だけ帰るつもりだ!!
「い、一松さんっ……!!」
思わず叫ぶが、
「ダメだよ。他の男の名前を呼んじゃ~。ほら、キスさせて。いくらだっけ?」
頬にキスされた。
「同じ顔だし、誰でも同じでしょ。お金をあげるから僕だけを見てよ~」
「あ、もう一回、触っていい? いいよね」
うーわーあーっ!!
何で私が無事に帰るハッピーエンドにならなかったのか。
現在の狂気の展開になってしまったか。
…………
途中までは、あの河川敷の光景が現実だったのだ。
昼間。皆が怒ってイヤミ社長を追い回し、私もちょっと怒られて。
で、一松さんと帰ろうとして。
だが一松さんと河川敷を出ようとしたとき、流れが変わった。