第1章 最初の一ヶ月
ここはどこかって?
私一人なら絶対入ることがない、いや入れてもらえない大人の高級バーだ。
薄暗い店内、静かに流れる洋楽、グラスを拭く蝶ネクタイのバーテンダー。
所狭しと並ぶ棚の洋酒。窓からは街の夜景。
場所は知らん。六つ子につれてこられた。
もちろん私はお酒を飲めないので、私の前に出されているのはソフトドリンク。
だがおそ松さんたち五人の方は、相当に酒が入っている。
私へのタッチを自粛しなくなる程度に。
「ほら松奈も飲みなよ~。これ、すごく美味しいよ!」
と、できあがってる十四松さん。
「いけない子猫ちゃんだ。その目は俺を誘ってるつもりか? さあ、飲むといい」
とサングラスを外すカラ松さん。
「僕のも飲んでいいよ~。お金? 全部僕たちが払うから心配しないで」
トド松さんも笑顔だ。笑顔で強要してくる。セクハラかつアルハラ。もはや救いがない。
何、この狂った空間。
おかしくない? おかしいでしょ。
何でこうなった。どうしてこうなっている!
さっきの私が見た白昼夢こそが現実のはず。
私は、五人の男性に嬉々として接待される顔レベルではない。
なのになぜ、着々とオプション料金がたまり続けているのか!
誰か助けてっ!!
「おい、おまえら!!」
チョロ松さんが! ついに立ち上がった!!
私は安堵する。六つ子の良心といわれるチョロ松さんが、立ってくれた。
この狂った空間を正常に導くため、彼は兄弟達にビシッと……。
「女の子にいきなり強い酒を勧める奴があるか! 最初は度数の低いやつからだろう!」
え。いや、私、未成年……。
だが『おお~』と他の兄弟たちは納得する。
「そっかそっか。ごめんな、松奈。何を頼もうか~」
「子猫ちゃんにはスクリュー・ドライバーかな? それともカルーア・ミルク? カシスオレンジも定番かな」
「フローズン・スタイルとかフラッペ・スタイルの方がスイーツっぽくて松奈ちゃんも
喜ぶんじゃない? ほら、これなんか美味しそうだよ!」
「はいはいはーい! 店員さーん。女の子向けでオススメなの、教えてくださーい!」
「おい十四松、勝手に頼むんじゃねえよ! ほら松奈、どれがいい? 早く決めてよ」
どうしよう。彼らが何を言っているのかサッパリ分からない。